吉記(読み)きっき

改訂新版 世界大百科事典 「吉記」の意味・わかりやすい解説

吉記 (きっき)

権大納言藤原(吉田)経房の日記。記名は,経房が洛東吉田に住み,吉田と称されたための名称。現存本記の年次は,1173年(承安3)から88年(文治4)にわたるが,《吉部秘訓抄》や《仙洞御移徙部類記》に収める記文は,1166年(仁安1)から98年(建久9)に及ぶ。経房は故実に詳しく,政理に通じ,有能な実務官僚として後白河院政期に活躍し,ことに源頼朝の厚い信任を得て,朝幕間の取次役を委任された。その日記は,激動する政局機微にもわたり,平安末~鎌倉初期の重要な史料とされている。《史料大成所収。なお《吉記》から有職故実に関する記文を抄録した《吉部秘訓抄》には,本記に欠けている記事を多く収載している。
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百科事典マイペディア 「吉記」の意味・わかりやすい解説

吉記【きっき】

権大納言(ごんのだいなごん)藤原経房(つねふさ)の日記。経房は京都吉田(現京都市左京区)に住み,世人は経房一流を吉田と呼んだのが書名の由来。現存本の年次は1173年から1188年に及ぶが,《吉部秘訓抄(きちぶひくんしょう)》などによれば,1166年から1198年までの記事が存在したらしい。故実(こじつ)に通じた経房は,有能な実務官僚として後白河院の院政期に活躍し,のち源頼朝の厚い信任を得ている。現存本の大部分源平争乱の時期を占めており,当時の政治史などを知るうえで貴重。→有職故実

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉記」の意味・わかりやすい解説

吉記
きっき

平安末期~鎌倉初期の公家(くげ)権大納言(ごんだいなごん)民部卿(きょう)藤原(吉田)経房(つねふさ)の日記。『吉御記(きつおんぎ)』『吉大記』とも、また民部省の唐名(戸部)から『吉戸記(きっこき)』ともいう。1173年(承安3)~1188年(文治4)分が現存。ただし欠脱が少なくない。しかし残存部分の記述は詳細で、単に朝廷儀式、行事だけでなく、治承(じしょう)・寿永(じゅえい)の内乱や家領支配の実態までを知ることができる。平氏政権の隆盛から鎌倉幕府成立に至る時期の公家の日記として『玉葉(ぎょくよう)』に次ぐ史料的価値があり、領家(りょうけ)クラスの公家のあり方を知るうえではさらに貴重な史料である。『史料大成』所収。

[飯田悠紀子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吉記」の意味・わかりやすい解説

吉記
きつき

平安時代末期から鎌倉時代前期における吉田経房の日記。現存するのは,承安3 (1173) 年から文治4 (88) 年までの記録で,途中数年分欠けている。当時経房は弁官をつとめる一方,実際の権力者後白河法皇にも仕えていたので,政治に関する記述が多く,また時代がいわゆる源平の争乱期であったため,『平家物語』の史実を考えるうえにも貴重な史料である。日記名は後世の人々が,吉田権大納言の日記という意味でつけたもの。『史料大成』に所収。

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世界大百科事典(旧版)内の吉記の言及

【勧修寺家】より

…なお江戸時代には同家に,甘露寺,葉室,万里小路(までのこうじ),清閑寺,中御門(なかみかど),坊城,芝山,池尻,梅小路,岡崎,穂波,堤の諸家を加えた13家を総称して勧修寺家ともいい,当時の名家の過半を占めた。また勧修寺一門の廷臣は,為房の《大記》をはじめ,経房の《吉記》,経俊の《吉黄記》,経長の《吉続記》など,重要な日記を多く残しており,その記述は実務官僚としての一門の性格をよく反映している。現在京都大学文学部に蔵する〈勧修寺家文書記録〉には,為房の自筆日記をはじめ,近世に至る貴重な文書や記録を収めているが,経房,資経,経俊,定資,経顕の各遺領処分状には,合わせて20ヵ所前後の所領が載せられている。…

【吉続記】より

…権大納言吉田経長の日記。書名は,経長の先祖藤原経房が吉田と号し,その日記を《吉記》と称したことから,これをつぐ意味で《吉続御記》と名づけ,これを略して《吉続記》という。1267年(文永4)より1302年(乾元1)に及ぶが,中間22年分を欠く。…

※「吉記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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