徳永直(すなお)の長編小説。1929年《戦旗》に連載,《日本プロレタリア作家叢書》4として戦旗社刊。徳永がその中心にあって体験した東京小石川の共同印刷争議は約2000人の労働者が60日に及ぶ争議を闘った労働運動史上画期的なものだった。その体験の小説化である本作は,高台下のどぶ川に沿う谷底の,陽の当たらぬトンネル長屋,窮迫してゆく貧民の生活,行商で支える組合婦人部,闘士やダラ幹や裏切者や資本家や暴力団や警察などの多彩な動きを縫って芽生えた愛情を伸ばしてゆく若い男女の姿が美しく,争議敗北後〈旗を守れ〉と叫ぶ青年たちの不屈ぶりも印象的な作品である。一印刷工の描いた小説は画期的なことで,“日本のゴーリキー”とも称され各国語に翻訳もされた。
執筆者:小笠原 克
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徳永直(すなお)の長編小説。1929年(昭和4)6~9月、11月雑誌『戦旗』に連載。同年12月、戦旗社刊。作品の題材は、徳永が体験した1926年(大正15)の共同印刷の大争議である。従業員3000名をもつ大同印刷の、会社側の労働組合破壊活動と組合側のストライキ闘争を主軸に、小石川の谷底の「東京随一の貧民窟(ひんみんくつ)トンネル長屋」すなわち「太陽のない街」に住む労働者たちの窮迫した生活に焦点をあて、また、闘争の指導的分子萩村(はぎむら)、友人の宮地、婦人部の高枝、その妹の加代ら労働者のさまざまな姿と、資本家側の策謀を立体的に描いている。主要人物たちが類型的で造形不足などの弱点はあるが、作者の実体験に支えられた描写とプロットの展開は、労働者仲間に読んでもらうことを第一の目的とした意図を十分果たしており、小林多喜二(たきじ)の『蟹工船(かにこうせん)』(1929)と並んで日本プロレタリア文学の記念碑的作品となった。のちに舞台化、映画化もされている。
[大塚 博]
『『太陽のない街』(新潮文庫)』
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…評議会の指導下に,組合側は〈アジト〉を設け,〈細胞〉を組織し,他組合の支援をうけて奮闘したが,労働者の足並みが乱れ,ついに争議団全員1180人の解雇という惨敗に終わった。徳永直《太陽のない街》(1929発表)は,同争議の体験にもとづく小説である。【三宅 明正】。…
…実際に26年11月から27年3月に起きた健康保険法関係の争議68件中,44件が評議会の関与したものであった。総同盟など他の組合に比べ,はるかに多くの争議を指導したが,なかでも有名なものは徳永直の《太陽のない街》で知られた共同印刷争議,浜松の日本楽器争議である。 評議会はまた共産党の合法部隊として,無産政党結成運動でも大きな役割を果たした。…
※「太陽のない街」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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