使役年限を予約した奉公(主従的雇用労働)関係。江戸時代以来、人身の永代売買や身分的な永代下人奉公は一般に禁制されてきたが、「年限」を決めての人身の「質入れ」や「身売り」はなお容認された。それゆえ、初期の奉公人には「年季身売り奉公」や「年切り質奉公」の形が多くみられ、年季がきて「本金(借銭)」を返済すると、身柄は戻された。いわゆる「本金返し」の身売り奉公契約で、「年季質物奉公」も実質的には同じで、もちろん奉公中の労働に対価は認めてもらえず、雇主(金主)の使役のままに従った。しかしやがて、奉公中の労働に対価観念が生じて、「本金返し」にその分を加味したり、あるいは「質奉公」では「居消質(いげししち)」と称して、奉公中の労賃と借銭を相殺するような形も生まれた。こうした動きと相関して、「前借(ぜんしゃく)年季奉公」、つまり奉公年限を予約し、その給金をいちおう査定して「前借」する形がしだいに一般化していくが、これらもなお「身売り奉公」とよばれ、とくに遊里の婦女年季奉公などはほとんどそうであった。これらは実質上「居消質奉公」「年季身売り奉公」とさして変わりもなかった。もちろん、反面、労賃をあらかじめ定めて一定期間奉公労働に服するという契約的な年季奉公の発生もかなり古く、日雇奉公労働の形さえ一部には生じていた。ともかく江戸時代の農家奉公人が「年季奉公」の形を通例としたのには、以上のような事情が働いていたのである。江戸末期以降は農家奉公人も「年切り奉公人」、つまり1年契約の形に多く移行し、「出替り」と称するその交代日も地方ごとに生じたが、なお数年継続の形も多かった。商人、職人の徒弟制度の「年季奉公」は別趣で、むしろ職能の習得自立の修業過程として重視されたが、奉公中の労働に対価観念が生じなかった点には似た点もある。ともかく、江戸末期以後は農家奉公人にも前借の制約を伴わぬ年季・年切り奉公の形が一般化したが、対等の契約による賃労働には、なおほど遠いものであった。
[竹内利美]
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年切(ねんきり)とも。一定の年限をきめて行う奉公。江戸時代の一般的な奉公形態で,年季も長年季からしだいに短年季へ移行する。長年季の奉公は未成年層中心で,家事や雑用に使役されたり,商家や職人のもとで技術の習得や商売の見習いを目的とする場合が多い。これに対し1年季などの短年季の奉公は,給金の取得自体を目的とする成人労働の性格が強く,武家奉公人や農家の奉公人などに多くみられた。
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…年季とは,年季売,質置,本銭返等をふくめての期間であるが,当初しばらくは3年,後には10年とされ,1698年(元禄11)には制限が外される。年季売や質置は,江戸中期には年季奉公となる。貨幣経済の浸透とあいまって,年季奉公は漸次純粋な労働力の提供を目的とするものと徒弟奉公の2種におちつく。…
…たとえば越後の農民が,杜氏(酒造労働者)や湯屋の三助として冬季のみ各地に出かけたのは有名である。もう一つは,村が不作や水害などの災害に襲われて田畑の耕作が不可能になったとき,近隣の農家や,三都,城下町の武家や商家に下男として年季奉公する場合である。この場合は,そのまま奉公先に居ついて離村することもあるが,多くは給金を国元へ送金し経営の再建に努め,やがて経営が安定するか,もしくは本人が他所での就労に耐えられなくなった時点で帰村する。…
…商工業の家に年季奉公をする幼年者をいう。職人の家では弟子,徒弟とも称した。…
…【北原 章男】
【農村奉公人】
近世農村の奉公人は一般に譜代,下人,下男,下女などと呼ばれていた。その雇用関係の内容は時期により,また地方により多種多様であるが,身分関係,契約形式,労働対価支払方式,雇用期間などをメルクマールにして譜代下人,質券奉公人,居消(いげし)奉公人(押切奉公人,居腐(いぐされ)奉公人),年季奉公人(年切奉公人),出替奉公人(一季奉公人),日割(ひわり)奉公人,季節雇,日雇などの諸類型に区分される。これらの諸類型は,近代的な賃労働関係の発生する以前の,雇用関係の発展過程を示すものとして重視される。…
※「年季奉公」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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