最大多数の最大幸福(読み)サイダイタスウノサイダイコウフク(その他表記)the greatest happiness of the greatest numbers

精選版 日本国語大辞典 「最大多数の最大幸福」の意味・読み・例文・類語

さいだいたすう【最大多数】 の 最大幸福(さいだいこうふく)

  1. ( [英語] the greatest happiness of the greatest number の訳語 ) イギリスの功利主義的道徳観の基礎原理。最も多くの人々に最大の幸福をもたらす行為を善とみなす立場。ベンサムが用いて有名になったことば。
    1. [初出の実例]「人間万事の運動を視察するに統計の実数を利用して、以て最大多数(サイダイタスウ)の最大幸福(サイダイカウフク)を謀るが如き」(出典:福翁百話(1897)〈福沢諭吉〉三四)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「最大多数の最大幸福」の意味・わかりやすい解説

最大多数の最大幸福
さいだいたすうのさいだいこうふく
the greatest happiness of the greatest numbers

ベンサムのことばとして有名。もともとはハチソン、ベッカリーア、プリーストリーらによって用いられたもの。ベンサムは、その「功利utilityの原理」や「功利主義」utilitarianismをもっと人々にわかりやすく説明するために、主著『道徳および立法の原理序説』(1789)の第2版(1823)の欄外注において、「功利の原理を最大幸福あるいは最大多数の最大幸福に置き換える」と述べており、以後、今日ではこのことばはベンサムの造語とさえ考えられるようになった。ベンサムは、プリーストリーの『政府論』(1769)のなかでこの語句をみいだし、のちに転用するようになったものと思われる。

 ベンサムの「功利の原理」は、すでに『政治断片論』(1776)において展開されている。ここで彼は、まず、ブラックストンに代表されるような時代・場所・人を異にする裁判所の判決例である「コモン・ロー」(普通法)重視の考え方に対して、合理的な原理に基づく普遍的・統一的な法律による統治を主張している。次に彼は、国家や政府は人々の同意や契約に基づくから、悪政には抵抗し革命を起こしてもよいという社会契約説や近代自然法に対して、政治の良否は、普遍的な法律に従って統治しているかどうかによって普通の人々でも判断できるようにすべきである、と述べている。そして、そのような法律を制定する基準が「功利の原理」であると主張する。そこで彼は、続く『道徳および立法の原理序説』の前半部分において、人間にとって何が快であり何が苦であるかを哲学的手法によって詳細に論じている。このため、彼の最大幸福原理は主として倫理学の研究対象とみなされがちだが、主著の後半部分が刑法改正論でもあるように、この原理はベンサムの政治論の哲学的前提であると考えるべきであろう。なぜなら、よい法律をつくるためにはよい議会にする必要があり、よい議会とはなるべく多数の人々の政治参加が望ましいということになるから、この最大幸福原理は、当時の最重要な政治的課題であった選挙権の拡大闘争に理論的根拠を提供するものとなった。このため、ベンサムの思想は、中産階級やチャーティスト運動に結集した労働者階級にまで支持を受けた。また最大幸福原理は、ベンサムの後継者J・S・ミルにより『自由論』(1859)、『代議制統治論』(1861)として発展させられた。

[田中 浩]

『田中浩著『国家と個人』(1990・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「最大多数の最大幸福」の意味・わかりやすい解説

最大多数の最大幸福
さいだいたすうのさいだいこうふく
the greatest happiness of the greatest number

J.ベンサム以降の 19世紀のイギリス功利主義の倫理説で,道徳の目標とされた標語。すでにこのような倫理説は,J.ロック以降,啓蒙哲学者 F.ハチソンや J.プリーストリーによっても唱えられたが,ベンサムがその著『道徳および立法の諸原理序説』 An Introduction to the Principles of Morals and Legislation (1789) で理論化した。この書で,個人の生活の目標は幸福であり,したがって個人の機械的総和である社会における幸福とは最大多数がそれを享受しうることとした。 J.S.ミルは,ベンサムの快楽説を認めながらも,彼が快楽の質的相違を無視していることを批判し,人はときにより低い快楽を選ぶこともあると考えた。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「最大多数の最大幸福」の解説

「最大多数の最大幸福」(さいだいたすうのさいだいこうふく)
the greatest happiness of the greatest number

19世紀イギリスで有力になった功利主義の原理を,ベンサムが体系化して用いた標語。幸福は快楽であってしかも計量可能であり,その量的な極限を最大数のものが享受できる社会を理想とすることを示した。

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百科事典マイペディア 「最大多数の最大幸福」の意味・わかりやすい解説

最大多数の最大幸福【さいだいたすうのさいだいこうふく】

→功利主義

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旺文社世界史事典 三訂版 「最大多数の最大幸福」の解説

最大多数の最大幸福
さいだいたすうのさいだいこうふく
the greatest happiness of the greatest number

イギリスの倫理学者ベンサムの功利主義の標語として命名。功利主義の原理を表す。

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世界大百科事典(旧版)内の最大多数の最大幸福の言及

【快楽主義】より

…ここには浅薄ではあるが,大多数の人間を支配している快楽原則を見抜いた冷徹な世知がある。功利主義の提唱者ベンサムやJ.S.ミルは〈最大多数の最大幸福the greatest happiness of the greatest number〉を標語として掲げ,幸福とは人間の求める善であり,それは快楽を求め,苦痛を避ける合理的行動によって達成しうると考える。個人の合理的利己的行動こそ政治の干渉さえ受けなければ,かえって社会の自然の調和を生み,最大善・最大幸福に寄与しうるという。…

【功利主義】より

…主として19世紀のイギリスで有力となった倫理学説,政治論であり,狭義にはJ.ベンサムの影響下にある一派の思想をさす。ベンサムは《政府論断片》(1776)のなかで,〈正邪の判断の基準は最大多数の最大幸福である〉という考えを示した。彼はこれを立法の原理とすることによって,従来の政治が曖昧な基礎にもとづく立法に依拠していたのをただそうとしたのである。…

※「最大多数の最大幸福」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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