獅子(しし)に似た像。胡麻犬、高麗犬とも書く。獅子形とも、また獅子狛犬とも称し、単に狛ともよぶ。本来は獅子であるが、昔、高麗から伝来したので高麗犬というとの説が有力。一説に、魔除(まよ)けとして置かれたので拒魔犬とも。『禁秘抄』に、清涼殿の御簾(みす)や几帳(きちょう)の裾(すそ)に鎮子(ちんし)として置かれたとあり、左を獅子としている。多くは神社の社頭や社殿の前などに守護、魔除けのために置かれるが、寺院に置かれる場合もある。向かい合わせに、一つは口を開き、他は閉じるという阿吽(あうん)の一対として置かれるのが普通であるが、両方とも開口、閉口などの例外もある。木や石でつくられたものは多いが、金属や陶製のものもある。国の重要文化財に指定される遺品は、木造では、東京都府中市の大国魂(おおくにたま)神社、新潟県小千谷(おぢや)市の西脇(にしわき)家、石川県白山市の白山比咩(しらやまひめ)神社、滋賀県栗東(りっとう)市の大宝(たいほう)神社、同野洲(やす)市の御上(みかみ)神社、同高島市の白鬚(しらひげ)神社、京都市右京区の高山寺(4対。うち2躯(く)の台座に嘉禄(かろく)元年(1225)とある)、東山区の八坂(やさか)神社、伏見(ふしみ)区の藤森神社、兵庫県三田(さんだ)市の高売布(たかめふ)神社、奈良市の薬師寺、和歌山県伊都郡の丹生都比売(にうつひめ)神社(2対)、広島県三原市の御調八幡宮(みつぎはちまんぐう)、同福山市の吉備津(きびつ)神社などのものがあり、石造では、京都市左京区の由岐(ゆき)社、宮津市の籠(こもり)神社、福岡県宗像(むなかた)市の宗像大社、同太宰府(だざいふ)市の観世音寺のものがあり、陶製では、千葉県香取(かとり)市の香取神宮、愛知県瀬戸市の深川神社などのものがある。
[三橋 健]
『上杉千郷著『狛犬事典』(2001・戎光祥出版)』
神社や仏寺の門前に置かれている獣形の像をいう。その起源はペルシアやインド地方にあるが,日本ではその異形な姿を犬と思い,日本犬とはちがっているので,異国の犬すなわち高麗(こま)の犬と考えたのである。したがって狛犬と獅子と形を混同したものがあるが,平安時代には明確に区別していた。たとえば清涼殿の御帳前や天皇や皇后の帳帷の鎮子(ちんず)には獅子と狛犬が置かれ,口を開いたのを獅子として左に置き,口を閉じ頭に1角をもつもの(人の邪正をよく知るという獬豸(かいち)といわれる獣)を狛犬として右に置いた。また当時の舞楽の中にも獅子と狛犬があり,信西の《古楽図》の中にもその形が残されている。しかし後世になると二つは混同され,神社や仏寺の前に守護のために置かれた獅子は,しだいに犬の形にちかづいて〈狛犬〉と呼ばれるようになり,それに反して舞踊の上では獅子の雄壮な形姿が喜ばれてもっぱら獅子舞が広布し,狛犬の舞踊のほうは衰滅してしまった。神社や仏寺の前に狛犬が置かれる理由については諸説が行われているが,インドの仏寺や中国の宮門,陵墓の前などにも獅子などの動物の像をならべる風習がみられる。この風習はまたエジプト,バビロニア,アッシリアなどの自然崇拝に由来するといわれるが,日本の場合もこれらの習俗にならったものであろう。要するに狛犬は元来獅子を表現するものであり,宮中や陵墓,あるいは神社,仏閣などの聖域を守護し,邪悪の出入を禁ずる目的をこめて置かれた鎮獣と考えられる。
→獅子
執筆者:野間 清六+光森 正士
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…大日如来の垂迹神,天照大神の神子たる天皇の神格を〈王法即仏法〉の考え方によって権威づける儀礼であった(《江家次第》)。この段階では,唐獅子は仏法のみならず,邪悪なものを退け,国家鎮護を祈念する形代として呪術的な機能が賦与されていたわけで,これを〈ししこまいぬ(狛犬)〉とも呼んだ。仏寺や神社の門前の左右に狛犬を配する風習も,これにかかわりがあろう。…
※「狛犬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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