哲学者。出羽(でわ)国大館(おおだて)(秋田県)の生まれ。1888年(明治21)帝国大学理科大学数学科、ついで1891年同大学文科大学哲学科を卒業。1898年から1906年(明治39)まで第一高等学校校長としてその校風を築いた。その後、京都帝国大学教授、同大学文科大学学長となった。生涯独身で過ごし、脱俗的奇行の持ち主として知られたが、博学多識で、自然主義者、無神論者の立場から倫理学を研究した。また日本の自然科学思想史の先駆的研究者であり、安藤昌益(あんどうしょうえき)を世に紹介し、また1895年には志筑忠雄(しづきただお)の『暦象新書』中の「混沌(こんとん)分判図説」を紹介し、「カント‐ラプラスの星雲説」に勝る評価を与えるなどした。1908年、京都帝大退職後、後輩の事業に出資して財を失い、長年にわたって収集した貴重本を含む膨大な蔵書も売却し貧窮のうちに没した。彼の蔵書は「狩野文庫」として東北大学に所蔵されている。
[菊池俊彦 2016年8月19日]
『安倍能成編『狩野亨吉遺文集』(1958・岩波書店)』
明治期の哲学者,思想家,教育家 京都帝国大学文科大学学長。
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哲学・思想家。出羽国秋田藩出身。東京帝大理科大学(数学),同文科大学(哲学)卒業後,四高,五高の教授を経て,1898年33歳で一高校長となり,田辺元,小宮豊隆などに影響をあたえた。1906年京都帝大文科大学学長となった。1冊の著書すら残さないが,独創的な合理主義思想家であり,志筑忠雄を評価し,埋もれていた安藤昌益を発見・紹介した(1899)。幅広い古書収集家としても知られ,狩野文庫(東北大学蔵)がある。なお,安倍能成編《狩野亨吉遺文集》(1958)がある。
執筆者:佐藤 能丸
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1865.7.28~1942.12.22
明治~昭和前期の思想家。秋田藩儒の家に生まれる。東大卒。1898年(明治31)五高教授から一高校長に転じ,京都帝国大学文科大学の創設委員を務めたのち,1906年に初代学長となるが短期間で辞任。以後は在野で書画の鑑定・売買を業としてきわめて合理主義的に生きた。日本の自然科学思想史の草分けとして,安藤昌益・志筑忠雄の紹介などでも活躍した。その収集資料は現在,文書類が京都大学総合博物館,典籍類が東北大学付属図書館にそれぞれ所蔵されている。
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…二井田での門人は,村内でも殿方とよばれる上層の農民で,彼らは伝統的な宗教的行事を廃止し,また昌益を〈守農大神〉としてまつる石碑を立てたりしたため,寺僧や修験と対立し,石碑は破却されるに至ったという事件が,昌益の没後2年目に起こっている。このように各地に門人がおり,また著書の一部は出版されたにもかかわらず,昌益の思想が世に知られた形跡はなく,1899年ごろに哲学者狩野亨吉が稿本《自然真営道》を入手し,その特異な思想に注目するまでは,全くうずもれた存在であった。やがて第2次世界大戦後に至り,E.H.ノーマンの著書(邦訳名《忘れられた思想家》)の影響などもあって,封建的な身分制度を根本から批判した日本で唯一の思想家として広く知られるようになった。…
…同年経済学部,23年農学部を新設し,化学研究所,人文科学研究所,工学研究所などを付置して研究教育体制を整備していった。東京帝大が官僚養成機関の性格を強くもったのに対して,京都帝大は,狩野亨吉が初代学長となった文科大学(文学部)が哲学,史学,文学の3学科制をとり,いわゆる支那学を重視したり,史学地理学講座を設けるなど学科・講座組織に特色をもち,自由闊達で創造的な〈京都学風〉を形成したこと,沢柳事件(1913)で教官任免に関する学部教授会の慣行的自治権や実質的な総長互選制を実現したこと,さらに滝川事件(1933)でもファシズムと戦争勢力に対して全学的な抵抗運動を展開するなど,近代日本の学問形成と大学自治の歴史に特筆すべき位置を占めている。49年に新制大学に改編され,旧制第三高等学校と付属医学専門部を併合し,また教育学部を新設した。…
…同じ題名で稿本と刊本との2種類がある。稿本は本文100巻92冊と大序巻1冊とから成る大部の書で,1899年ころ狩野亨吉によって発見されたが,関東大震災(1923)で大半を焼失し,現存するのは原本12巻12冊(東京大学総合図書館蔵)と,人相巻の写本3巻3冊(慶応義塾図書館蔵)である。原本12巻のうち,大序巻と巻二十五の良演哲論の巻とは昌益の思想を最も体系的に集約したものとして,また巻二十四の法世物語の巻は,鳥,獣,虫,魚それぞれの対話の形式で人間社会を批判した文学的叙述として注目される。…
※「狩野亨吉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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