翻訳|feather
鳥類の体をおおっている表皮の変形物で,発生学的には哺乳類の毛や爬虫類のうろこと相同である。しかし,羽毛はすべての鳥類に存在し,鳥類以外の動物にはまったく見られないので,鳥類の重要な特徴となっている。羽毛はその形態によって,正羽,綿羽,半綿羽,糸状羽,粉綿羽(ふんめんう)の5種類に分類できる。正羽contour featherは1本の羽軸rachisとその両側の羽弁vaneより成り,羽弁は多数の羽枝barbおよび羽小枝barbuleからできている。羽小枝は小さな鉤(かぎ)によって互いに組み合わされていて,このため羽枝と羽小枝はばらばらにならずに1枚の羽弁を形成している。体表面をおおう羽毛の大部分と風切羽(かざきりばね)および尾羽はみな正羽で,その機能は主として皮膚の保護と飛行である。綿羽downはふわふわした綿のような羽毛で,はっきりした羽軸をもたず,また羽小枝に鉤がない点で正羽と異なる。綿羽は正羽の下にあって,体温を保持するのに役立ち,カモ類などの水鳥でとくによく発達している。半綿羽semiplumeは正羽と綿羽の中間の状態で,羽軸ははっきりしているが,羽小枝に鉤がないため外観は綿羽に似ている。この羽毛も正羽の下にあって,体温を保持する働きをする。糸状羽filoplumeは毛のような羽毛で,羽弁は退化し,羽軸のみ変形して残ったと考えられる。ニワトリの羽をむしったあとに見える産毛のような羽毛がこれで,また口ひげなどの剛毛も糸状羽の一種といわれる。最後に,粉綿羽powder downも綿羽に似た羽毛だが,換羽しない点が他の羽毛と異なっている。この羽毛はたえず成長をつづけ,その羽枝の先端は崩壊して厚さ1μほどの微小な,防水性に富んだ粉末となる。鳥はくちばしでそれを他の羽毛になすりつけ,羽毛の耐水性や耐磨耗性を高めるらしい。粉綿羽はサギ,シギダチョウ,ある種のタカやオウムなどで顕著である。これらの羽毛はいずれも複雑な発生過程を経て表皮から生じ,ケラチンより成っている。1羽の鳥の羽毛(正羽)の数は種,性,年齢,季節などによって異なるが,一般に鳥が大きいほど多く,最少はハチドリの940枚,最多はコハクチョウの2万5126枚という記録がある。多くのスズメ目の鳥は1500~3000枚程度である。また,寒冷地の鳥は冬になると羽毛の数が増える。たとえば,アメリカコガラの正羽の数は6月に1140枚で,2月に1704枚であった(ただし,調査した個体が別なので個体変異による差を含む。綿羽は数えにくいので資料がない)。羽毛の起源は,おそらく初めは皮膚の保護のために発達したが,鳥類が定温動物になるとともに体温の維持と調節に大きな役割を果たすようになり,最後に飛行器官として進化したと想像される。いずれにせよ,羽毛は軽く,ひじょうにじょうぶで,しかもやわらかく,そのうえ含気性・保温性などに富んでいるので,皮膚の保護,体温の保持,飛翔(ひしよう)のどの目的にもよく適応したものといえる。したがって,羽毛は飛翔のためだけのものではない。鳥は羽毛を最良の状態に保つために,羽づくろい,脂ぬり,水浴,砂浴,蟻浴(ぎよく),日光浴などの羽毛維持行動に1日のかなりの時間を費やす。羽毛の他の重要な機能は,ディスプレーおよび種の認識に使われることである。このため,多くの鳥においてさまざまの飾羽(かざりばね)や冠羽が発達している。
執筆者:森岡 弘之
人間が生活面でおもに利用しているのは正羽(フェザー)と綿羽(ダウン)で,形,色調,模様の美しいクジャクやダチョウ,キジ,ゴクラクチョウなどのフェザーは,紀元前のエジプト,バビロニアなどで,また南北アメリカ・インディアンの間で王室や権力の象徴として王冠,頭飾,ケープ,扇などに使用された。ヨーロッパでも15世紀ころから男女とも帽子の装飾,髪飾,襟巻,衣服の縁どりなどに用いられている。ダウンは,北極圏などの寒い地域に生息する水鳥が巣づくりに用いた後に採集し,布袋に詰めたり,布と布との間にはさみキルティングをして用いた。ダウンは呼吸する繊維ともいわれ,そのすぐれた保温性,通気性,軽さ,弾力性から,エスキモーは古くから衣服や寝具として利用していた。北ヨーロッパでは13世紀ころより用いられ,16~17世紀には王侯貴族が羽毛布団やまくらを使っていたという。現在,最大の羽毛輸出国である中国では,食用としてアヒルやシチメンチョウ類を早くから家畜化し,羽毛の採取も容易なので農家の寝具として一般に利用されていた。アメリカでは北極近くの軍隊の軍服や,飛行服に用いられている。日本へは明治初期に羽毛布団が輸入されたが高級なものとして一般化されなかった。1973年ころより輸入が盛んになるとともに,国産化も進み80年代には高級とされながらも一般家庭に浸透した。同時に冬季の日常着やスポーツ用としても広く愛好されている。
執筆者:船戸 道子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鳥類に特有の、体表面に生える物質。皮膚からできるケラチン質のもので、発生学上は哺乳(ほにゅう)類の毛や爬虫(はちゅう)類の鱗(うろこ)と同一である。羽毛は、第一に体温の保持に関係しており、鳥類の定温性に不可欠である。次に翼や尾の羽毛は飛翔(ひしょう)器官として機能し、体羽は全体として体を流線形にして飛翔に適した外形を形づくるのにも役だっている。
正羽(せいう)とよばれる板状の羽毛は、体表面上の羽区(うく)とよばれる特定部位に生える。この正羽は、羽軸(うじく)、羽枝(うし)、小羽枝よりなり、小羽枝についている鉤(かぎ)が互いに絡み合って板状になっており、この点で哺乳類の毛とは異なる。重なり合った正羽の下には、板状にならない柔らかな綿羽(めんう)downが生えている。これは羽域以外の裸区にも生えており、保温効果を高めるのに役だっている。ガンカモ類などの水鳥では体表面全体に密生している。幼鳥の綿羽は幼綿羽という。羽軸はほとんどなく、正羽が出るとその先についてしばらく残る。羽毛は初め羽鞘(うしょう)に包まれ、血管からの養分によって成長し、色素や空胞ができて美しい色を発する。
なお、服飾面でも、服装・アクセサリー、そして寝具などにも幅広く利用されている。
[樋口広芳]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…一般には矢羽根や飛行機の翼のことをもいうが,動物学的には羽毛のこと。羽毛は鳥類特有の表皮の変形物で,鳥の体の表面をおおい,また風切羽および尾羽となっている。羽毛の主な機能は体温の保持と飛翔(ひしよう)のためであるが,そのほか皮膚の保護,ディスプレーや種の認識などのためにも役だつ。羽毛には正羽,綿羽,半綿羽,糸状羽,粉綿羽などの種類があり,飛翔と皮膚の保護にあたるのは正羽で,綿羽と半綿羽は体温の保持に役だつ。…
…飛翔(ひしよう)生活にもっとも適応した脊椎動物で,基本的な体制は爬虫類と共通な点が多いが,両者は一見して区別することができる。鳥類のおもな特徴をあげると,(1)体は羽毛で覆われている,(2)前肢は変形して翼となり,後肢のみで体を支える,(3)体温は定温性,(4)卵生であるが,雛は両親の保育を受けるなどである。このほかにも,骨は含気性で軽いとか,気囊をもっているとか,現生の鳥には歯がないとか,いろいろの特徴がある。…
※「羽毛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新