能管(読み)ノウカン

デジタル大辞泉 「能管」の意味・読み・例文・類語

のう‐かん〔‐クワン〕【能管】

能に用いる、7指孔で長さ約39センチの横笛。4~6本の短い管をつなぎ、また、吹き口と指孔の間には別の管(のど)をはめ込む。歌舞伎囃子ばやし民俗芸能にも用いられる。能笛のうてき

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精選版 日本国語大辞典 「能管」の意味・読み・例文・類語

のう‐かん‥クヮン【能管】

  1. 〘 名詞 〙 能楽に用いる横笛。指孔が七つで長さは一尺三寸(約三九センチメートル)。外見は、雅楽の横笛(おうてき)に似るが、管の内側の歌口と指孔の間に別の管(喉(のど))がはめ込まれ、音色が異なる。のちには長唄の囃子(はやし)里神楽などにも用いられた。能笛(のうぶえ)
    1. [初出の実例]「琴、胡弓、能管(ノウクヮン)木管、篠と云ふので御座いまして」(出典落語・阿七(1890)〈三代目三遊亭円遊〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「能管」の意味・わかりやすい解説

能管 (のうかん)

日本の横笛の一種。能・狂言においては唯一の旋律楽器であり,歌舞伎囃子,江戸の里神楽,京都の祇園囃子などでも用いられる。能の分野では単に〈笛〉と称することが多く,演奏家も笛方(ふえかた)と呼ばれる。竜笛(りゆうてき)を祖とし,外観や内径の変化はよく似ているが,後述のように管内に喉(のど)(または管(くだ))のある点が異なり,それは能管の最大の特徴でもある。

 素材は女竹(めだけ)で,煤竹(すすだけ)を良材とする。長さ約39cm,管の最も太い部分の外径約2.4cm。歌口1と指孔7がある。長さや指孔の位置は一本一本異なるので,音律はさまざまである。能管1本は,ふつう,地竹(じだけ)(歌口から尾端まで),蟬(せみ)の部分,頭端部という3部分から成り,これが接合されているが,地竹は喉を入れるためにいったん切断し再びつながれる。喉は歌口と指孔の間の部分に,管の内側に密着させた短い竹管である。これによって,同じ指孔で出る低音(和(ふくら),呂(りよ)とも)と中音(責(せめ),甲(かん)とも)のオクターブ関係は著しく崩れ,低音の音色は暗くなる。歌口より頭寄りに鉛あるいは鉄のおもりを入れ,蠟でふさぐ。蠟の面を調節して調子を加減できる。頭端に頭金かしらがね)という彫金細工の飾りがはめ込んであり,能管の銘はこの模様によるものが多い。管内には漆を厚く塗り,朱漆で仕上げられる。外部は歌口,指孔,節を除いた部分に籐巻(とうまき)または樺巻(かばまき)を施し補強する。歌口と指孔の周囲にも朱漆を塗る。なお竹を縦割りにし,面を整形してから1本にまとめる割り継ぎの工法がある。その際,竹を裏返しにしたものもあるが,管内の漆塗りが厚いので,音色上の効果はない。

 能管は息の強さと歌口面の傾け方によって,低音と第2倍音列の中音の2種が出る。ヒシギという能管特有の音はそれより高い。筒音(指孔を全部閉じて出る音)は2点ニ音の周辺。指孔をおさえる指をずらし,歌口への唇のあて方によって音高を微妙に変えられる。指孔は歌口に近い三つの孔を左手の人差指中指薬指でおさえ,尾端に近い四つの孔を右手の人差指から小指まででおさえる。一定の旋律型を吹き連ね,基本的な指使いも定まっているが,奏者によって装飾的指使い(差し指)がさまざまに行われる。拍に規定されたリズムで吹く合ワセ吹キと,拍に規定されないリズムのアシライ吹キがあり,四拍子(よひようし)のみの合奏には両者が用いられ,謡(うたい)の伴奏はアシライ吹キだけである。旋律の基本のにおける各句の終止音が,歌口に近い指孔二つ(森田流は三つ)をおさえた音であるものを黄鐘(おうしき)調といい,これが基本であるが,歌口に最も近い1孔をおさえる盤渉(ばんしき)調の曲もある。特殊なものに双調(そうぢよう)と平調(ひようぢよう)がある。ただし壱越(いちこつ)調の曲はない。記譜法は3種で,唱歌(しようが)(旋律の口頭表現)を記す唱歌付ケ,指孔開閉を図示する指付ケ,旋律型の名称を記す頭付ケがある。能管専門の奏者が存在するのは能・狂言の分野で,現在,一噌(いつそう)流,森田流,藤田流がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「能管」の意味・わかりやすい解説

能管
のうかん

日本の楽器の一種。能の囃子に用いられる管楽器で,歌舞伎の囃子にも用いる。雅楽の竜笛 (りゅうてき) とほぼ同じ形態,構造であるが,管長および指孔の間隔が不定。指穴は7穴の竹製の横笛であるが,いくつかの短い管をつないで,樺 (かば) または籐 (とう) で巻いて漆で留め,内側と穴の周囲は朱漆を塗る。管内の歌口と頭部の境目に蜜ろうを詰め,これによって音を調節。指穴は歌口に近いほうから,普通,干 (かん) ,五,上,夕 (しゃく) ,中,六,下と呼ぶが,その音律は不定。一種の無調音的な性格もあって,同じ旋律の形を演奏しても,流儀,個人差によって実際の音の異同がはなはだしい。同じ指孔の開け方でも,セメ,フクラの2種の音が出せるが,必ずしもオクターブとはならない。また,ヒシギという特殊な高く鋭く強い音を出すことができる。これらの特色は歌口と歌口にいちばん近い指穴の管内部に「喉 (のど) 」という短い竹管が差込まれていることから生じる。旋律は類型的なパターンから組合され,能の舞の部分に現れる基本的なフレーズに,呂,呂ノ中,干,干ノ中の組合せがあり,これが繰返されたものを「地」という。能における流儀に,森田流一噌流 (いっそうりゅう) などがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「能管」の意味・わかりやすい解説

能管
のうかん

日本の管楽器の一種。竹製の横笛で、能や狂言の囃子(はやし)に用いられることからこの名がある。歌舞伎(かぶき)の下座(げざ)音楽や長唄(ながうた)囃子、また江戸の里神楽(さとかぐら)や京都の祇園(ぎおん)囃子などの各種の民俗芸能にも用いられる。外観や全体の音高が雅楽の竜笛(りゅうてき)に似ているので、竜笛から変化したものと考えられるが、内部構造は竜笛とはまったく異なり、その変化の経緯は不明である。全長約39センチメートル、7孔で、歌口(うたぐち)と指孔の部分以外は外側を樺(かば)または籐(とう)で巻いて漆をかけ、管の内側と歌口および指孔の周囲は朱漆で塗り固めてある。構造上竜笛ともっとも異なる点は、歌口と第1指孔との間に「喉(のど)」とよばれる細く短い管が挿入してあることで、これによって倍音構造がきわめて不規則となり、この楽器独特の鋭い音色と特徴的な音律とが生み出される。

[千葉潤之介]

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百科事典マイペディア 「能管」の意味・わかりやすい解説

能管【のうかん】

能楽に用いる笛。竹製横吹きで指孔は7個あり,形状は雅楽の竜笛に似ているが,管の内側に喉(のど)と呼ぶ別の短い管を入れるなどの構造上の違いがあり,音高が一定せず,平均律的な旋律が吹きにくいように作られている。囃子方のうち笛方が担当。歌舞伎囃子(ばやし)などでも用いる。
→関連項目四拍子

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世界大百科事典(旧版)内の能管の言及

【音取】より

…さらに神楽にも和琴(わごん),篳篥,神楽笛による固有の音取が奏される。 能においては,能管に音取という旋律がある。これは,高音(たかね)とか六ノ下(ろくのげ)などという名をもつ数節からなる非拍節的な旋律で,小鼓の置鼓(おきつづみ)(特殊な囃子事の一つ)と合奏される。…

【能】より


【囃子】
 能には,小鼓(こつづみ),大鼓(おおつづみ),太鼓(たいこ)の4楽器を用いる。笛は,他種目用の管楽器と区別して呼ぶときには能管と称する。笛,小鼓,大鼓はすべての能に用いられ,演目によってはこれに太鼓を加える。…

【笛】より

…しかし日本では,それらのなかでもいわゆる横笛の類が多用され,とくに親しまれてきたため,笛といえば横笛のことという観念もまた強い。 横笛とは竜笛(りゆうてき),能管篠笛等々を指す俗称で,演奏時の構えに由来する呼び方であるが,原理的・構造的にも共通性があり,和楽器以外(たとえば洋楽のフルート)にも適用が可能である。その発音機構には目で見る限り,音づくりのきっかけをつくる振動体であるリードの存在が認められない(このことを指してノンリードなどともいう)。…

【呂中干】より

…能の用語。笛(能管)の旋律やリズムの母体となる楽句(〈地〉という)の一種である〈呂中干ノ地〉の略称。〈呂・中・干・干ノ中〉と呼称する音高や旋律の異なる4句から成る。…

【渡り拍子】より

…句から句へ拍子が渡ることからの名称とも,また祭礼などで大勢の者が練り歩くときに用いられる囃子物からの名称ともいう。能には笛(能管)と謡事に渡り拍子があり,笛は規則的な拍の存在が明確なリズムで,毎句第1拍に当てて吹き出すのを基準とする。〈下り端(さがりは)〉〈楽(がく)〉〈猩々乱(しようじようみだれ)〉〈鷺乱〉〈獅子〉などに用いられる。…

※「能管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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