郷神楽とも書く。広義には宮中の御神楽(みかぐら)に対して,民間で行われる伊勢流の神楽(霜月神楽など),出雲流の神楽(佐陀神能(さだしんのう)など),巫女(みこ)神楽,獅子神楽(獅子舞,山伏神楽など),祭文・奏楽神楽をいう。とくに巫女舞を指すこともある。狭義には,江戸時代中期以降に江戸に伝承された埼玉県北葛飾郡鷲宮(わしのみや)神社の〈土師(はじ)一流催馬楽神楽〉を流祖とする江戸里神楽を指す。江戸里神楽は東京を中心に関東一円で行われ,仮面をつけ,神話や神社の縁起を黙劇形式で演じ,ひょっとこ,おかめの滑稽(こつけい)もからむ。演目を座と呼ぶが,多いところでは60座以上を有し,おもに専門の神楽師によって演じられる。能楽風の神楽面や衣装をつけ,大拍子,太鼓,笛などの囃子が入る。
→神楽 →御神楽
執筆者:西角井 正大
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(1)宮中以外の場所で奏される神楽。平安時代には宮廷の楽人が、石清水(いわしみず)、賀茂(かも)、祇園(ぎおん)、春日(かすが)などの諸社において神楽を奏する場合に里神楽と称した。
(2)宮中の神楽に対する諸社の神楽。伊勢(いせ)、気比(けひ)、出雲(いずも)など地方の諸社の神楽を称した。平安・鎌倉時代に里神楽と称したものは、巫女舞(みこまい)であった。1690年(元禄3)成立の『楽家録(がっかろく)』でも諸社の巫女舞を里神楽と称しており、古来、里神楽には諸社の巫女舞が含まれていた。
(3)民間の里神楽。民俗芸能として全国的に行われているが、その様式によって巫女神楽、出雲流神楽、伊勢流神楽、獅子(しし)神楽の4種に分類される。とくに江戸の里神楽と称するのは鄙(ひな)(田舎(いなか))の神楽の意で、出雲流の神楽である。一定の神社に付属せず神事舞を職とした神事舞太夫(たゆう)たちが氏子の求めに応じ、祭礼の神賑(かみにぎ)わいに神楽殿で演じた。「天之岩戸」「天孫降臨」など神話に取材した曲や、能狂言などを神楽化した曲があり、黙劇である点が特色である。
[渡辺伸夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…招魂思想には天の岩屋戸(あまのいわやど)神話の天鈿女命(あめのうずめのみこと)の作法(わざ)を唱導した猿女氏のもの,平安以降宮中鎮魂祭の主体となった天饒速日命(あめのにぎはやびのみこと)の降臨神話による物部氏のもの,神功皇后の新羅攻めの説話にちなむ阿度部磯良(あどべのいそら)の安曇(あずみ)氏のものなどがあるが,内侍所御神楽の基本となったのは石清水八幡宮を経た八幡系の安曇氏の鎮魂作法だったようである。神楽歌
[里神楽]
御神楽以外の民間の神楽を里神楽(さとかぐら)と総称するが,別して江戸で発達した神楽を1874年(明治7)から郷(里)神楽と呼ぶようになった。民間の神楽は全国津々浦々に散在し,おびただしい数にのぼる。…
…島根県の佐陀神能(さだしんのう)も12番行われるが,これはとくに十二座神楽の名称はない。江戸の里神楽は山崎美成の《海録》(1837成立)に〈今用ゆる神楽の十二座などいへる舞は,土師(はじ)の舞とておほかた百五十年ばかりも前かたにいで来にける也〉とあり,十二座を基本とする。これは江戸里神楽の源流とされる埼玉県北葛飾郡鷲宮(わしのみや)神社の〈土師一流催馬楽神楽〉(国指定重要無形民俗文化財)が十二座神楽を称したためで,同社ではすでに1708年(宝永5)に十二座神楽執行の記録がある。…
…関東の神楽の面芝居と,中国,四国地方の浄瑠璃による面芝居があり,江戸時代末期から明治にかけて祭りや盆に盛んに行われた。関東では里神楽の社中が余興芸として行い,歌舞伎狂言のパロディ化した演目などをせりふ付きで演じた(里神楽は黙劇)。中国,四国地方では浄瑠璃に合わせて1人で演じ,浄瑠璃に登場する人物に合わせてそのつど面と衣装を替え,面を口にくわえるのでせりふはしゃべらない。…
※「里神楽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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