蒲鉾(読み)かまぼこ

精選版 日本国語大辞典 「蒲鉾」の意味・読み・例文・類語

かま‐ぼこ【蒲鉾】

〘名〙
① (「がまほこ」とも) 蒲(がま)の穂。ガマ科の植物の花穂(かすい)が鉾(ほこ)の形に似ているところからいう。がまのほこ。蒲槌(ほつい)。《季・夏》 〔名語記(1275)〕
② 白身の魚をすり身にし、調味料片栗粉などを加えて練り、それを板につけ、あるいは簀巻(すまき)にし、時には種々の形に細工して、蒸し、ゆで、またはあぶり焼きにした食品。室町時代に、すり身を竹に塗りつけて焼き、儀式に用いたのが始まりで、その形や色が蒲の穂に似るところからこの名がある。本来のものを竹輪(ちくわ)かまぼこ、後世の板につけたのを板付きかまぼこという。おいた。魚糕(ぎょこう)
※鈴鹿家記‐応永六年(1399)六月一〇日「鮒すしかまほこ香物肴種々台物五つ」
③ 板つきのかまぼこのような形。円筒を縦に切り、断面を下にした形。かまぼこがた。かまぼこなり。「かまぼこ兵舎」
(イ) 蒲鉾小屋(かまぼこごや)。また、そこに住む人や、そこに住むような貧しさ。
※評判記・たきつけ草(1677)「おとこのしんだいかまぼこになりてののちも、女はすてぬ心ざしなるべけれど」
(ロ) 宝石を入れないで、中高に造った指輪結婚指輪にはこれを用いることが多い。〔模範新語通語大辞典(1919)〕

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デジタル大辞泉 「蒲鉾」の意味・読み・例文・類語

かま‐ぼこ【××鉾】

白身の魚のすり身に調味料を加えて練り、蒸し煮あるいはあぶり焼きした食品。長方形の板に材料半月形に盛り上げる板付きかまぼことすることが多いが、板を用いないものもある。古くは細い竹を芯にして筒形に塗りつけ、その形がガマの穂に似るところからこの名がついた。
かまぼこ形のこと。「蒲鉾屋根」
宝石をはめていない、かまぼこ形の指輪。
ガマの穂。

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改訂新版 世界大百科事典 「蒲鉾」の意味・わかりやすい解説

蒲鉾 (かまぼこ)

水産練製品の一つ。魚肉をすりつぶし竹ぐしに塗って焼いたものの形がガマ(蒲)の穂に似ているところから〈蒲鉾〉と呼んだと室町時代中期の古文書に見える。また一説に,起源は東南アジアの海岸地域とされる。板つき蒸しかまぼこが現れたのは江戸末期で,その後加工技術が改良され,本格的に大量生産が可能になったのは比較的近年のことである。原料魚はエソ,グチ,ハモ,ニベ,ムツヒラメなどほとんど白身魚で,〈足〉と称する特有の強い弾力とよい味を出すため,通常数種の魚を配合している。しかし,これらの原料魚が不足してきたため,従来あまり利用されなかったスケトウダラが〈冷凍すり身〉の形で,主原料とされている。

製造法の基本は,魚肉に食塩などを加えてすりつぶしてから加熱する操作である。工程は,まず原料魚から採肉して精肉(落とし身)とする。それを水にさらし,脱水してさらし肉とするが,落とし身の水さらしは,肉中の血液,脂肪,魚臭成分のほか,足の形成に悪影響を及ぼす水溶性タンパクを除去する重要な工程である。さらし肉は肉ひき機で細切してから擂潰(らいかい)することもある。擂潰はすり鉢を機械化した擂潰機またはサイレントカッターを用いて行う。この際,食塩,重合リン酸塩,調味料のほか,臭素酸カリウム,デンプンなどの弾力補強剤,増量剤を加える。擂潰したものは肉糊(すり身)となり,それを成形して成形すり身とする。これを加熱してかまぼこ様ゲルとし,冷却,包装して製品とする。すり身は放置すると粘着性を失い,弾力のある固まりに変化する。これを〈座る〉という。いったん座ったものを加熱すると座らせないものを加熱したのとは比較にならぬほど,足の強いかまぼこができる。このため,最近のかまぼこは座らせてから製造したものが多い。座ったものをさらに放置すると原料の種類によっては,しだいに弾力が失われてくるものがある。これを〈戻る〉という。戻ったものは加熱しても足は出ない。加熱には蒸す,煮る,焙(あぶ)る,焼く,揚げるのいずれかを単独で,あるいは組み合わせて用いる。

製品は板つきかまぼこが代表的で広く全国で製造されている。これには小田原式の蒸して作る蒸板(むしいた),京阪地区に多い蒸し上げてから表面を焼く焼板(やきいた),関西各地の始めから焙焼(ばいしよう)する焼抜(やきぬき)の3種がある。笹(ささ)かまぼこは仙台地方が有名で,すり身を木の葉状に成形し,くしに刺して炉上で焼き上げたものである。同じように,すり身を鉄板上で焼いたものに和歌山のなんば焼き(南蛮焼きともいう)などがある。簀(す)巻きかまぼこは麦わらやプラスチックの麦わら模造品にすり身を包んで蒸したもので,今治地方で製造されている。昆布巻きかまぼこはすり身をコンブで巻き,蒸し上げたもので富山県下で作られる。このほか特殊なものとして,かまぼこを乾燥させてからかんなで削った削りかまぼこや薫乾した薫製かまぼこ,また食用よりも外観を重んじた祝儀用の細工かまぼこなどもある。
執筆者:

かまぼこの名が見られるのは室町中期のことになる。《四条流庖丁書》(1489)はコイで作るのが正式だといい,《宗五大双紙(そうごおおぞうし)》(1528)は〈かまぼこはなまづ本也,蒲のほをにせたる名なり〉としている。タケにすり身をぬりつけた形がガマの穂に似ていたことからの名で,今のちくわである。流派によってコイとナマズの差があるが,いずれも淡水魚を材料としているのは海産鮮魚を入手しにくかった京都の地理的条件の反映であろう。そして,これが本格だと強調しているのは,すでに海産魚を材料とするものの方が歓迎されていたためかもしれない。そうした事情を裏づけるかのように,《大草家(おおくさけ)料理書》(室町期?)にはタイやエイで作る方法が書かれ,《雍州府志》(1684)には京都清水坂の茶店でハモのかまぼこを売っていたことが記されている。《本朝食鑑》(1697)は材料別による品質に言及し,タイ,アマダイ,ハモで作ったものがよく,ヒラメ,キス,ハゼ,イカ,ボラ,エビなどのものがこれにつぎ,ナマズ,アラ,サメは下品だとしている。現在のかまぼこはほとんどがすり身を板にはりつけたものになっているが,こうした板つきかまぼこは,室町末期成立と考えられる《大草殿より相伝之聞書》に製法が見え,前記《雍州府志》は〈近世之製也〉といっている。また,井原西鶴の《好色一代女》巻五には〈女ながら美食好み〉として,鶴屋のまんじゅう,川口屋の蒸しそばなど当時評判の食べ物の名が列挙され,その中に〈椀屋の蒲鉾〉というのも見える。貞享3年(1686)以前,すでにかまぼこ屋にも名店があったわけである。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「蒲鉾」の意味・わかりやすい解説

蒲鉾【かまぼこ】

グチ,ハモ,メヌケ等の白身の魚をすり,調味料,デンプン等を加えて蒸し,または焼いたもの。多く板に盛って作るが,昔は竹串に塗りつけて焼き,ガマの穂に似たところからこの名があるという(竹輪(ちくわ))。吸物のわん種,煮物等に使用,またそのままワサビ醤油で食べる(板わさ)。
→関連項目日本料理練製品

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和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典 「蒲鉾」の解説

かまぼこ【蒲鉾】

魚のすり身を塩などで調味して成形し、蒸したり焼いたりした食品。えそ・すけとうだらなどの白身魚を用い、長方形の小さな板にすり身を半月形に盛って蒸して作るものが代表的。◇蒲(がま)の穂は、形が鉾(ほこ)に似ていることから「蒲鉾(かまぼこ)」と呼ばれたが、古くは竹にすり身を塗りつけて筒状に焼いて作ったものがこれに似ていたことから、この名がある。安土桃山時代に板に盛って焼くものが現れ、筒状のものは「ちくわ」というようになったとされる。

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世界大百科事典(旧版)内の蒲鉾の言及

【水産加工】より

…江戸時代にはマツモ,アラメ,ワカメ,コンブの乾燥品が多く出回り,寒天を作る技術も確立した。かまぼこの製造は以前から行われていたが,今日の製法の基礎ができたのはこの時代である。鰹節(かつおぶし),なまり節の製造も本格化した。…

【ナマズ(鯰)】より

…ただし,この国字の成立は古く,すでに《新撰字鏡》(898‐901年ころ成立)に見え,《和名抄》は鮎をアユと読み,ナマズには鯰を用いている。《料理物語》(1643)はナマズの料理として汁,かまぼこ,なべ焼き,杉焼きをあげている。〈かまぼこはなまづ本也,蒲のほをにせたる物なり〉(《宗五大艸紙》)というように,ナマズのかまぼこはよくつくられたようである。…

※「蒲鉾」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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