藤原元命(読み)ふじわらのもとなが

日本大百科全書(ニッポニカ) 「藤原元命」の意味・わかりやすい解説

藤原元命
ふじわらのもとなが

生没年不詳。平安中期の官人。名を「もとよし」と訓(よ)む説もある。魚名(うおな)流藤原氏で、父は正五位下肥前守(ひぜんのかみ)経臣(つねおみ)、母は周防守(すおうのかみ)源致(いたる)の女(むすめ)。兄は従(じゅ)五位下右少弁雅材(まさき)。式部丞(じょう)から、986年(寛和2)尾張(おわり)守に任じられたが、不当に正税(しょうぜい)・官物を徴収したり、農民を不法に使役するなど、非法・横法の限りを尽くしているとして、988年(永延2)郡司百姓らにより訴えられ、翌年4月の除目(じもく)で解任された。訴状「尾張国郡司百姓等解(ひゃくせいらのげ)」31か条は、地方政治のようすをうかがう貴重な史料とされている。

阿部 猛]

『阿部猛著『摂関政治』(教育社歴史新書)』

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朝日日本歴史人物事典 「藤原元命」の解説

藤原元命

生年:生没年不詳
平安中期の貴族。経臣の子。村上朝(946~967)の蔵人藤原雅材の異母弟,花山朝(984~986)の蔵人藤原惟成の叔父。従四位下。寛和2(986)年,尾張守に任じられて赴任したが,租税調庸の不法な増徴をはじめ,公費の横領,息頼方や一族郎等による狼藉,官物の京宅への運送など,苛斂誅求の限りを尽くしたとして,永延2(988)年11月8日,郡司,百姓らから31カ条にわたる罪状を訴えられた(「尾張国郡司百姓等解文」),悪徳受領の典型。その結果翌永祚1(989)年4月5日の除目で罷免されたが(代わって藤原文信が任命),長徳1(998)年4月,吉田祭の上卿(行事の責任者)が不参のため散位の元命が代わりにこれを勤めており,罷免は当面のトラブルを避けるための糊塗策であったか。もっとも『尾州鳴海地蔵縁起』には,元命は解任されたあと「術ツキテ東寺門ニテ乞食ケルガ,終ニハ飢死タリケリ」とあって,史実ではないが,その暴政ぶりが語りつがれ説話になったことが知られる。<参考文献>阿部猛『尾張国解文研究

(村井康彦)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「藤原元命」の解説

藤原元命
ふじわらのもとなが

生没年不詳。平安中期の官人。経臣の子。986年(寛和2)尾張守。988年(永延2)11月,定例出挙(すいこ)以外に多額の正税を加徴して不当な息利を得たこと,法外に租穀を加徴して非法の官物を責めとったこと,また京から下向するたびに不善の輩をひきつれて濫行に及んだことなど,31カ条にわたる悪政を郡司・百姓らに訴えられた。翌年尾張守を解任されたが,その後も他国の国守に任じられ,従四位下まで昇叙した。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「藤原元命」の解説

藤原元命 ふじわらの-もとなが

?-? 平安時代中期の官吏。
肥前守藤原経臣(一説に藤原国隣)の子。尾張守に在任中,官物を横領し,法外な租税をとったため,永延2年(988)郡司,百姓らに31ヵ条の罪状をうったえられる(「尾張国郡司百姓等解文(げぶみ)」)。翌年解任されたが,のち従四位下まですすんだ。

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旺文社日本史事典 三訂版 「藤原元命」の解説

藤原元命
ふじわらのもとなが

生没年不詳
平安中期の受領 (ずりよう)
経臣 (つねおみ) の子。尾張の国守在任中,官物を横領,重税を課したため,988年郡司・百姓らから「尾張国郡司百姓等解文」によって31カ条にわたる非政を訴えられ,989年解任された。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「藤原元命」の意味・わかりやすい解説

藤原元命
ふじわらのもとなが

尾張国解文」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の藤原元命の言及

【尾張国】より

…尾張国においては,住民が国司の悪政を訴えて出るという例が多くみられた。とりわけ,10世紀の末葉における藤原元命の場合には,郡司や百姓による31ヵ条にわたる国司弾劾の内容が,《尾張国郡司百姓等解文》として今日に伝えられていて,国司罷免というその結果とともに上訴事件の代表例として知られている。数多い同類の事件の一例であろうが,地方行政のポストを単なる利権の対象とみる当時の中央貴族たちの実態を示すものといえよう。…

【尾張国郡司百姓等解文】より

…尾張国解文ともいう。988年(永延2)尾張国内の郡司や有力農民が国守藤原元命の在任中3年間の非法失政を朝廷に直訴した31ヵ条の告訴状。内容は,公出挙(くすいこ)や交易による課税の増加や郎等らを率いての乱暴,運送負担の強制,元命自身の私利追求など多岐にわたっている。…

※「藤原元命」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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