虫こぶ(読み)むしこぶ(その他表記)insect gall

改訂新版 世界大百科事典 「虫こぶ」の意味・わかりやすい解説

虫こぶ (むしこぶ)
insect gall

動物が植物に寄生,共生し産卵した結果,植物体の一部が,こぶ状に発育したもの。虫癭(ちゆうえい)ともいう。虫こぶを作る動物は99%が昆虫で,ほかにダニクモ,糸状虫がある。とくにブナ科植物に作るインクタマバチの虫こぶを没食子ヌルデ属植物に作るアブラムシ類の虫こぶを五倍子と呼び,タンニンの原料とする。しかし,作物果樹にできた虫こぶは,生育の妨げとなる。例えば,ブドウネアブラムシ,タマナコフキアブラムシ,モモコフキアブラムシ,モモコブアブラムシ,クワシントメタマバエ,マツシントメタマバエ,クリタマバチなどによるものである。虫こぶを作らせる物質は未知であるが,昆虫の種類によって産卵する植物の種類も部位も,できる虫こぶの形も決まっている。クリタマバチは,1941年岡山県で発見され,日本全土にまんえんした。若い幼虫のまま冬芽内で越冬し,4月中ごろから幼虫が育ち始めると,新芽は伸びずこぶ状になり,変形して小葉を群生する。年1回,単為生殖する成虫は,6~7月に芽の中心部に産卵する。クリには耐虫性品種と,感受性品種があったが,47年以降,耐虫性品種の選抜育成が行われ,被害は減少した。耐虫性品種の銀寄(ぎんよせ),赤中,岸根田尻などは,いずれもクリタマバチの産卵を受けるが,芽のなかで孵化(ふか)した幼虫が,未知の物理的,化学的因子によって死滅される。しかし,数年前から,宮城,茨城,神奈川,愛媛で耐虫性品種に寄生がみとめられ,新しい形質をもった系統のクリタマバチが発生したと推察されている。なお,根にセンチュウ(線虫)類が寄生してできるこぶも虫こぶと呼ぶことがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「虫こぶ」の意味・わかりやすい解説

虫こぶ
むしこぶ

おもに昆虫が産卵、寄生することによって植物体組織が異常肥大成長してできるこぶ。虫えい(ちゅうえい)ともいう。細菌・菌類による菌えいとともに「えい瘤(りゅう)」とよばれることもある。こぶの典型的なものでは、中央の空間に虫が生息し、周囲は厚い組織に発達する。枝、茎、葉のほか、根、花、芽および果実にも形成される。奇形への誘発は、寄生者の分泌する物質による細胞の増殖と分化の異常、局部組織におこる生理調整の破綻(はたん)などが考えられている。クリタマバチのこぶでは植物ホルモンであるオーキシンの含量が高い。こぶをつくる虫には、ワムシ、線虫、クモ、ダニもあるが、昆虫が圧倒的に多い。なかでも、膜翅(まくし)目のタマバチ科と双翅目のタマカ科の昆虫類は、虫こぶの本質からも、実用面からも、もっとも重要である。前者では複雑な形のこぶ、後者では変異に富んだこぶが多い。

 有用な虫こぶとしてよく知られるものに、没食子(もっしょくし)(小アジア産のカシの枝にできるインクフシバチによるこぶ)、五倍子(ごばいし)(ヌルデの葉にできるアブラムシによるこぶ)があり、いずれもタンニンの材料として用いられる。しかし、農林業に与えている害のほうが、有用なものよりもはるかに大きい。クリタマバチは、クリの新芽に指先大のこぶをつくって成長を著しく阻害し、実の着生を皆無にする。この虫こぶは1941年(昭和16)に初めて岡山県に発生し、以来、全国に広がった。なお、チシマザサやアズマザサなどの葉に、ササウオタマカが産卵、寄生してできるこぶは、魚のようなかっこうになるので笹魚(ささうお)とよばれる。

[斎藤 紀]


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百科事典マイペディア 「虫こぶ」の意味・わかりやすい解説

虫こぶ【むしこぶ】

虫【えい】(ちゅうえい)。アブラムシやハチなどの昆虫その他の小動物の寄生によって刺激され,葉・茎・根などの組織が異常に発達してこぶ状あるいは特殊な形状となったもの。形は寄生者の種類によって決まっている。虫こぶは組織中にタンニンを含み,ヌルデの付子(五倍子)やナラ類の没食子のようにタンニン資源として利用されるものもあるが,一般に作物や果樹にできた虫こぶはクリタマバチのように着花を妨げ,害を与えることが多い。
→関連項目五倍子タマバチノブドウ没食子

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「虫こぶ」の意味・わかりやすい解説

虫こぶ
むしこぶ

虫癭」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の虫こぶの言及

【没食子】より

…〈もっしょくし〉とも読む。ブナ科ナラ属Quercusなどの若枝の付け根に寄生したインクタマバチCynips gallaetinctoriaeによってできる虫こぶ。樹種,虫種以外は五倍子と同じである。…

※「虫こぶ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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