イッカク(英語表記)narwhal
Monodon monoceros

改訂新版 世界大百科事典 「イッカク」の意味・わかりやすい解説

イッカク (一角)
narwhal
Monodon monoceros

ハクジラ亜目イッカク科の哺乳類。北極圏にすむ小型のハクジラで,雄は左上あごに長さ2mに達するきばをもつ。イッカクの名はこれに由来し,ヨーロッパにもたらされたそのきばは想像上の動物であるユニコーンunicorn(一角獣)の角と考えられた。北極圏に生息するが,カナダからヨーロッパの北部に多い。きばを除いた体長は3.8(雌)~4.5m(雄)。背びれはない。体色は幼体では全身灰黒色,成体では背面黒褐色,腹面はほとんど白色となり,その境はヒョウのような斑紋をなす。雌雄とも上あごに1対のきばをもつが,雄の右側のきばと雌の左右のきばは終生皮下に埋もれる。交尾はおもに4月ごろで,約15ヵ月の妊娠の後に7月ごろ体長1.7mくらいの1子を出産する。授乳は20ヵ月,出産は3年に1回である。餌はエビタライカなどで,きばは索餌にはまったく役だたないが,繁殖に際しての雄どうしの示威行動に役だつといわれている。バフィン島北部ではエスキモーによって年150頭程度が捕獲されている。きばは古くは薬用とされたが,今日では細工物材料となる。イッカク科にはほかにシロイルカがいる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イッカク」の意味・わかりやすい解説

イッカク
Monodon monoceros; narwhal

クジラ目ハクジラ亜目イッカク科イッカク属。体長は雄約 4.7m (牙を除く) ,雌約 4.2m。大型のものは体重約 1.6tに達する。出生体長は約 1.6m。未成鯨と成鯨では体色が異なる。未成鯨は藍ねずみ色であるが,のち青みを帯びた灰色または茶ねずみ色に変る。成鯨は背面に藍ねずみ色または鉄灰色の斑紋を多数呈する。頭部はやや小さく,嘴 (くちばし) はないが口のまわりがわずかに突き出る。頸椎骨が遊離しているので,頸部は明瞭で頭部を上下左右に振ることができる。噴気孔は1個で頭部正中線上にある。背鰭 (せびれ) はないが背部中央から尾部にかけての正中線上に低い隆起がある。胸鰭は小さく丸みを帯び,尾鰭の後縁は凸型で中央に切れ込みがある。雌雄ともに上顎先端に1対の歯がある。雌の歯は終生上顎の中に埋没しているが,雄は性的成熟に達する頃から,左側の上顎歯が左螺旋状に伸び,体長の3分の2 (約 2.5m) ほどの牙となる。まれに右側の上顎歯も発達し2本の牙を有するものもある。牙は雌を獲得する際,雄の順位決めに用いられるが,牙を用いた闘争行動は確認されていない。通常は2~10頭の群れで行動することが多く,ときに数百頭もの大群をなすこともある。繁殖期は7~8月。おもにイカ類を食するが,タラ等の底生魚類やエビ等の甲殻類も捕食する。分布北極海域に限られており,中央カナダ,グリーンランド東部,中央ロシアなどに生息している。秋は外洋へ,春は沿岸へと回遊する。イヌイットによりわずかに捕獲されている。雄の長い牙は解熱作用があるといわれる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イッカク」の意味・わかりやすい解説

イッカク
いっかく / 一角
narwhal
unicorn
[学] Monodon monoceros

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目イッカク科に属する海産動物。ウニコールともいう。北極海だけに分布している1属1種の小形のハクジラ。体長5メートルぐらいに成長する。成長に伴い雄は上あご左側の第1歯(門歯)が前方に伸長し、最長3メートルぐらいに達する。これが頭に1本の角(つの)があるように思われて名前がつけられた。想像上の動物である一角獣の幻想もこれによったといわれる。この歯の用途は雄の闘争用と考えられるが、詳細はまだ不明である。まれに左右2本の歯が成長した個体もある。体色は黒、紺、灰、白の小斑点(はんてん)が密集し、背側は紺黒色で腹側は淡い。エスキモーおよびシベリア先住民によって食用に利用されている。歯は粉末にし、漢方の解熱剤として珍重されたこともある。

[西脇昌治]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「イッカク」の意味・わかりやすい解説

イッカク

鯨目イッカク科のハクジラ。雄は体長4.5m,雌は4.0m。雄の上顎歯のうち1本は牙(きば)状で,2mほど。雌の歯は短小。北極海に分布。ふつう2〜10頭の小群をつくる。イカ,魚,エビを食べる。生息数は少ない。牙は古くは解毒剤として珍重された。
→関連項目ユニコーン

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のイッカクの言及

【きば(牙)】より

…バビルサの雄の犬歯は上下とも細長く,上の1対は吻の皮膚を貫いて上に伸び,先端が後下方に曲がっていて,武器としては役だちそうもない。長さ2.8mにも達するイッカクの雄の左側のきばも同様に用途不明である。右側のは普通退化し,雌にはきばがない。…

【角】より

… 他方,角は妙薬として珍重された。ギリシア・ローマ時代には,ユニコーン(一角獣)の角と誤って信じられたサイの角が,解毒剤や癲癇(てんかん)の治療薬として重視され,16世紀以降は鎖でつながれたイッカクの角が薬局の看板代りとなり,これを削って作った粉薬が売られた。また北方民族が古くから用いていた角杯は,毒が混入されると泡を出して解毒するといわれ,毒殺が流行した時代にはヨーロッパの王侯や貴族に広く使われた。…

【ユニコーン】より

…これが聖母マリアと教会とイエスの象徴であることはいうまでもない。ユニコーンの角は毒の力を消すとされたので,その角と考えられたイッカクの角は,削って服用されたり杯やナイフの柄にされた。このナイフの柄は毒が近づけば汗をかくと信じられた。…

※「イッカク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android