トレード・シークレット(読み)とれーどしーくれっと(英語表記)trade secret

翻訳|trade secret

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トレード・シークレット」の意味・わかりやすい解説

トレード・シークレット
とれーどしーくれっと
trade secret

経営状態を左右するほどの重要性をもつ企業秘密、営業秘密、業務上の秘密をいう。ノウハウknow-howすなわち技術情報や工程の秘密を含む、ある技術を実施するうえで必要な実践上の方法、技術上の説明および知識のうち、外部の者が知りえない内容のものなどが、その典型である。アメリカの消費者製品安全法Consumer Products Safety Actによれば、トレード・シークレットとは、商品の製造、加工、調合、取扱いまたは処理に用いられるが特許になっていない秘密、および商業的に価値ある企画、装置数式または工程をいう。有名な判例コカ・コーラ原液成分についてのものである。それは調合のノウハウであり、公開されておらず、売上げを決定的に左右する要因となっている。

 アメリカでは州法に、トレード・シークレット法Trade Secret Actという法があり、第三者従業員、退職者がノウハウを不正に利用することを禁じている。1986年に始まったガット(世界貿易機関=WTO前身)のウルグアイ・ラウンドの知的財産権協議において、アメリカがトレード・シークレットの保護を提案し、それを受けて日本では、91年(平成3)6月の不正競争防止法改正の際、刑法による処罰民法による損害賠償ほかに、不正情報の使用を差し止める権利が認められた。今後、世界的に保護が強化され、そのための国際ルールづくりが進行するとみられる。

 なお、1993年に独フォルクスワーゲン社(VW)が米ゼネラル・モーターズ社(GM)の副社長をスカウトした際、機密文書が持ち出されたとして両社間に争いが生じ、97年1月、VWが1億ドルを払って和解した事件がある。

[森本三男]

『千代田国際経営法律事務所編『企業秘密 トレード・シークレット』(1988・第一法規出版)』『知的所有権法研究会編『最新 企業秘密・ノウハウ関係判例集』(1989・ぎょうせい)』『土井輝生著『トレード・シークレット法――アメリカのコモン・ローと制定法の解説』(1989・同文舘出版)』『抜山勇・抜山映子著『営業秘密(トレード・シークレット)――知らねば損をする法知識と対策』(1991・にっかん書房、日刊工業新聞社発売)』『千野直邦著『営業秘密の法的保護』(2002・中央経済社)』『寒河江孝允著『知的所有権の知識』(日経文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トレード・シークレット」の意味・わかりやすい解説

トレード・シークレット
trade secret

営業上の秘密。企業のノウハウや技術,顧客情報などの知的経営資源の中で,企業の競争優位性と直接に結び付くもので,競争相手に対して,また外部に対して秘密とされるもの。従業員や管理者の企業間移動が頻繁に起こるアメリカでは,トレード・シークレットを守るためのさまざまな工夫が行なわれている。

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