保険業法(読み)ホケンギョウホウ

デジタル大辞泉 「保険業法」の意味・読み・例文・類語

ほけんぎょう‐ほう〔ホケンゲフハフ〕【保険業法】

保険業の健全で適切な運営と公正な保険募集の確保により保険契約者の保護を図ることを目的として制定された法律。保険会社の種類・組織運営・業務、保険契約者保護の仕組みなどについて規定する。平成7年(1995)に全面改正され、保険契約者等の保護を図るため、根拠法のない共済(無認可共済)を規制の対象とし、少額短期保険業制度を新設。また、保険会社の破綻に備えて、保険契約者保護機構の設立が規定された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「保険業法」の意味・わかりやすい解説

保険業法
ほけんぎょうほう

保険業法の意義

保険事業に対する行政の監督を定めるとともに、保険事業を営む者の組織および運営に関する規定を定めた法律(平成7年法律第105号)。保険業は、銀行業や証券業と同様、公共的性格がきわめて強く、その運営の適否は国民経済の全般に対して大きな影響を及ぼすことがある。そこで、国は保険事業の運営および組織に関して、監督・取締りを行っている。保険業法は、保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営および保険募集(保険契約の締結の代理または媒介を行うこと)の公正を確保することにより、保険契約者(保険加入者)などの保護を図り、もって国民生活の安定および国民経済の健全な発展に資することを目的としている(保険業法1条)。

[坂口光男]

保険業法の沿革と改正

日本で単独の法律としての保険業法が初めて施行されたのは、1900年(明治33)7月1日である。1939年(昭和14)に保険業法は全面的に改正されたが、その後、抜本的な改正がなされないまま今日に至った。1980年代以降、人口の高齢化、金融の自由化・国際化など、保険業を取り巻く環境は大きく変化した。そのため、保険審議会は、1989年(平成1)4月から保険事業のあり方および保険関係法規の見直しについて検討を開始し、1994年6月「保険業法等の改正について」と題する報告を当時の大蔵大臣に提出した。これを受けて立法作業が進められ、1995年5月、半世紀ぶりの全面的改正となる「保険業法」が成立した。この改正は、新しい保険制度を構築するという、日本の経済・社会にとってきわめて大きな意義を有している。

 この改正の大きな柱は、次の3本である。

(1)規制緩和・自由化の推進 具体的には生命保険損害保険の相互参入、保険商品・料率についての一部届出制の導入、生命保険募集人(後述)の1社専属制の一部緩和、保険ブローカー制度の導入などがあげられる。保険ブローカー(保険仲立人(なかだちにん))とは、保険加入者と保険会社との間にたち、保険加入者の要望にもっとも適した保険商品を保険加入者が入手できるように力を尽くす者である。諸外国では一般的に認められている。保険商品の販売チャンネルの多様化と、諸外国との整合性を図り、日本でも保険ブローカー制度が導入された。

(2)保険業の健全性の維持 具体的には自己資本比率基準の導入、経営危機に対応する制度の整備、保険計理人(生命保険数理に関する実務経験があり、会社の経営にも関わる専門家)の職務拡充、保険会社の資本金(基金)の最低額の引上げがあげられる。

(3)公正な事業運営の確保 具体的には相互会社における経営チェック機能の強化、ディスクロージャーについての規定の整備などがあげられる。

[坂口光男]

保険業法の構成

保険業法は、五つの編からなっている。第1編の「総則」では、保険業法の目的を定め、保険業などに関する定義を行っている。第2編の「保険会社等」では、保険事業の公共的性格にかんがみて、保険事業を免許事業とし、保険事業者となりうる者を一定規模以上の株式会社または相互会社に制限し、保険会社の経営の健全性を維持するために他業を営むことを制限している。保険会社が行うことができる業務の範囲は、
(1)固有業務(保険業法97条)
(2)固有業務に付随する業務(同法98条)
(3)法定他業(周辺業務、同法99条)
である。そして、保険会社の健全性の維持などの理由から、前記の(1)、(2)、(3)の業務およびほかの法律により行う業務のほか、他業を営むことはできない(他業の制限、同法100条)。また、生命保険・損害保険の兼営を原則として禁止し(子会社方式による相互参入は可能)、常務取締役の兼職にも制限を加えている。さらに金融庁の監督権限などについても定めている。この監督権限(保険事業開業の免許など)をもっていたのは、かつては大蔵省であったが、1998年(平成10)旧総理府の外局として発足した金融再生委員会に移管された。さらに、同委員会は、中央省庁再編に先駆けて2000年7月に発足した金融庁に翌年1月吸収され、保険業に対する監督権限は同庁に移った。

 第3編は「保険募集」について定めている。保険商品は、他の一般の商品(たとえば自動車)と異なって無形の商品であることから、保険加入者によって積極的に買い求められる商品ではない。そのため、保険事業者にとっては保険募集人による募集活動は不可決である。他方、募集活動の激化は、募集秩序を乱し、そのため多くの保険加入者の利益が害されることがある。そこで、保険業法は、保険募集の公正を確保するため、(1)保険募集を行うことができる者を定め、(2)保険募集人の登録、(3)保険募集に関する禁止行為等に関して定めている(保険業法275条~308条)。とくに、前記(3)の禁止行為として、保険契約者等に対する虚偽の告知・重要事項の不告知、保険契約者等に対する保険料割引等の特別利益の提供、他の保険契約との比較で誤解を招く表示等が定められている(同法300条)。なお、第4編は「雑則」、第5編は「罰則」となっている。

[坂口光男]

『安居孝啓編著『最新保険業法の解説』(2006・大成出版社)』

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百科事典マイペディア 「保険業法」の意味・わかりやすい解説

保険業法【ほけんぎょうほう】

保険事業に関する基本法(1939年公布,1940年施行)。保険者(保険会社)の支払能力を確保し,保険契約者または被保険者の利益を保護することを目的とし,民営保険事業に対する行政的監督,保険会社の組織・運営の基準などにつき規定。金融自由化・国際化の流れのなかで,1995年に保険業法・保険募集取締法・外国保険事業者法を一本化する大幅改正(1996年施行)が行われ,生命保険・損害保険の子会社による相互参入,ソルベンシー・マージン,保険仲立人(ブローカー)制度,保険契約者保護基金の導入がなされた。さらに1998年の保険制度改革(〈損害保険料率算出団体に関する法律〉改正による保険料率自由化のほか,証券会社・銀行との相互参入,保険契約者保護機構の創設など)を盛り込んで改正された。→保険
→関連項目金融商品取引法

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「保険業法」の意味・わかりやすい解説

保険業法
ほけんぎょうほう

昭和 14年法律 41号。保険事業に対する行政的監督を定めるとともに,保険会社 (株式会社,相互会社) の組織,運営に関する規準を定めている法律。 1995年に 56年ぶりの改正がなされ,生命保険と損害保険の相互参入が認められたほか経営の健全性を示す指数 (ソルベンシー・マージン) の導入がはかられた。さらに 1998年には金融システム改革法の成立に伴い大幅な改正がなされ,銀行,証券ならびに保険の相互参入の促進がはかられ,また保険契約者保護機構の創設などが義務づけられた。 2000年の改正により,生命保険相互会社の株式会社への変更が容易になった。また,この改正により生命保険相互会社にも会社更生法の適用が認められ,更生計画による予定利率の引き下げ等によって早期に再建に取り組むことが可能になった。 2003年には,破綻前に予定利率を引き下げることを可能にする改正が行なわれた。

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保険基礎用語集 「保険業法」の解説

保険業法

平成7年6月法律第105号として公布され、翌年4月から施行された。本法律は、?規制緩和・自由化による競争の促進、事業の効率化?健全性の維持?公正な事業運営を柱とする保険審議会答申(平成4年6月)に基づき、保険業法(昭和14年法律第41号)を56年ぶりに全面改正したものです。

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損害保険用語集 「保険業法」の解説

保険業法

保険事業の監督法規と保険事業を営む者の組織およびその行為に関する規定を含む昭和14年制定(平成8年改正)の法律のことをいいます。保険事業が健全に運営されることにより、保険契約者等を保護するために定められています。

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世界大百科事典(旧版)内の保険業法の言及

【保険】より

…(b)保証証券業務 債務者の契約上の債務や法令上の義務の履行を保険会社が債権者に対して保証することを約し,保険数理に基づいた対価を受ける業務(保険会社は債務者に求償する)。保険ではないが保険業法によって保険とみなされる。 (4)賭博,富くじ 多数者の拠出金が偶然に特定の者に帰属する点は保険と似ているが,不労の利得を目的とするもので射倖心をあおり正常な勤労意欲を阻害し公序良俗に反するとして,基本的に違法とされる。…

【保険業】より

…保険業(狭義の保険事業)は,このうち民営の,生命保険事業または損害保険事業を指す。 民営の保険業は〈保険業法〉(1939公布。1995年に後述のように大幅改正)によって規制を受ける。…

※「保険業法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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