証券業(読み)ショウケンギョウ

デジタル大辞泉 「証券業」の意味・読み・例文・類語

しょうけん‐ぎょう〔‐ゲフ〕【証券業】

証券市場において行われる有価証券自己売買委託売買引き受け・売り出し、募集または売り出しの取り扱い業務などをいう。
[補説]平成19年(2007)に証券取引法金融商品取引法に改正されたことに伴い、証券業は金融商品取引業に名称が変更され、業務の範囲が拡大された。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「証券業」の意味・読み・例文・類語

しょうけん‐ぎょう‥ゲフ【証券業】

  1. 〘 名詞 〙 有価証券の売買・引受け・売出し・募集または売出しの取扱いなどを行なう営業。銀行、信託会社その他政令で定める金融機関以外のもので、金融庁への届出を要する。〔証券取引法(1948)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「証券業」の意味・わかりやすい解説

証券業
しょうけんぎょう

証券業は資金需要者(証券の発行者)と資金供給者(投資家)との間を証券によって仲介する業務であり、証券取引に伴う資金と証券の流れを円滑化し、需給関係の調節機能を発揮する役割を担っている。「金融商品取引法」(金商法)では、証券に関する業務種類を、第1種および第2種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業としている。これらのうち、従来からの証券にかかわる本来業務は第1種金融商品取引業に含まれ、取り扱う商品は、株式、公社債投資信託デリバティブに大別される。また、業務内容は(1)ディーリング(自己売買)業務、(2)ブローカー(委託売買)業務、(3)アンダーライティング(引受け)業務、(4)セリング(売りさばき)業務、に分類される。

 これらのうち、ディーリング業務とブローカー業務は流通市場関連業務であり、アンダーライティング業務とセリング業務は発行市場関連業務である。

 ディーリング業務は、証券会社が自らの勘定でリスク負担の下に有価証券の売買を行うものである。マーケット・メーカーとして市場に厚みをもたせる機能をもっている。

 ブローカー業務は、投資家から有価証券売買の委託注文を受け、自己の名義で投資家のために売買する業務である。売買執行に伴って発生する損益は、すべて投資家に帰属する。従来の証券会社の中心的な業務であり、事務処理の対価として投資家から受け取る売買委託手数料は、証券会社の最大の収益源であった。しかし、1999年(平成11)10月に手数料の完全自由化が実施され、証券会社は収益構造の見直しを迫られた。この面では、インターネットを利用したブローカー業務に特化することでコスト低減を図り、投資家に低い手数料体系を提供する業者も出現している。

 アンダーライティング業務は、新たに発行される証券を投資家に販売する目的で、その全部または一部を取得するもので、売れ残りが出た場合に自らがこれを買い取る、残額引受契約を証券の発行者と締結する。残額引受契約を締結するのは、証券発行者の資金調達に際して売れ残りが発生することで、資金計画に齟齬(そご)をきたすことを回避するためである。発行者から証券を取得する行為を元引受け、元引受け業者から取得する行為を下引受けという。また、元引受けにおいて、引受け契約を確定するために協議を行う業者は幹事証券会社(幹事会社が複数の場合にその中心となる会社は主幹事証券会社)とよばれている。

 また、広義のアンダーライティング業務に付随するものとして、有価証券の売り出し業務がある。これは、すでに発行されていて大株主などが保有している株式を、投資家に販売する目的で取得する業務である。株式の公開・上場に際して、新たに株主をつくる目的でオーナー経営者が所有する株式を売り出したり、政府保有の株式を一般投資家に売り出したりするケースなどが該当する。

 セリング業務は、元引受け業者からの委託を受けて、投資家に分売する業務である。ただし、直接証券発行を引受ける場合と異なり、残額引受などの義務はない。

 これらの伝統的な証券業務に加えて、制度改革に伴い発生した新たな業務もある。その代表的なものがPTS(Proprietary Trading System=私設取引システム)である。従来、日本では取引所類似行為が禁止され、取引所に上場されている株式には市場集中義務が課せられていたため、私設取引システムの開設は不可能であった。しかし、市場集中義務に関する規制も1998年(平成10)の法改正により撤廃され、PTSが新たな証券業務として位置づけられることとなった。PTSでは、電子情報処理システムを使用して、投資家の売買注文をつきあわせる手法がとられる。

 1998年の法改正では、有価証券店頭デリバティブ業務も、新たに認められている。デリバティブ業務については、従来、証券取引所以外での取引が禁止されていたが、店頭市場での個別有価証券や指数の先渡取引、オプション取引、スワップ取引などを証券業務として加えたものである。

 以上の証券業務のうちPTS業務は、業務の専門性が高く、高度のリスク管理が必要となることから、この業務を営もうとする場合には、内閣総理大臣の認可が必要である。また、証券会社の登録に必要とされる資本金の額は、元引受け業務で主幹事証券会社となる場合が30億円以上(その他は5億円以上)、PTS業務は3億円以上となっている。

 証券会社はこれらの本来業務以外にも多様な関連業務を営んでいる。それらは、付随業務、届出業務、承認業務、に区分される。付随業務は、証券業に付随する業務で、業務遂行に際して届出は不要とされる。具体的には、(1)有価証券の貸借取引等、(2)信用取引に付随する金銭の貸付け、(3)保護預り有価証券を担保とする金銭の貸付け、(4)投資信託(会社型投資信託を含む)の収益金等の支払い業務の代理、(5)累積投資契約の締結、(6)証券に関する情報の提供・助言、(7)他の事業者に対する資本政策等に関する相談や仲介などがある。

 届出業務は、業務を行う際に届出が必要なもので、(1)商品取引所取引、(2)商品等デリバティブ取引、(3)賃金業その他、金銭の貸借およびその媒介、(4)不動産特定共同事業などのほか、遺言信託・遺産整理にかかる契約締結の媒介など、内閣府令で定める業務がある。

 承認業務は、これら以外の業務で、内閣総理大臣の承認を受けることを必要としているが、公益に反するものや、リスク管理が困難で投資家保護に支障が生じると認められる場合などは承認されない。

 なお、2007年9月に施行された「金商法」は、従来の縦割り規制を廃し、金融商品取引業という幅広い概念に基づき横断的な業規制を行っている。

[高橋 元]

『川合一郎・一泉知永編『証券市場論』(1972・有斐閣)』『有沢広巳監修『証券百年史』(1978・日本経済新聞社)』『貝塚啓明・志村嘉一・蝋山昌一編『金融・証券講座』全5巻(1981・東洋経済新報社)』『西条信弘著『金融制度の改革と証券業――自由化・グローバル化時代の証券市場』(1994・中央経済社)』『証券取引法研究会編『金融システム改革と証券取引制度』(2000・日本証券経済研究所)』『渡辺喜美著『金融商品取引法』(文春新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「証券業」の意味・わかりやすい解説

証券業 (しょうけんぎょう)

証券業とは,銀行,信託会社その他政令で定める金融機関以外の者が次に掲げる行為の一つを行う営業をいう。(1)有価証券の売買,(2)有価証券の売買の媒介,取次ぎまたは代理,(3)有価証券市場における売買取引の委託の媒介,取次ぎまたは代理,(4)有価証券の引受け,(5)有価証券の売出し,(6)有価証券の募集または売出し(募集・売出し)の取扱い(証券取引法2条8項)。

 (1)有価証券の売買とは,証券会社が自己の計算で顧客または他の証券会社から有価証券を買い,あるいは顧客等に対して有価証券を売却することをいう。(2)有価証券の売買の媒介とは,他人間の有価証券の売買が成立するために仲立ちすることをいう。媒介を専業とする証券会社としては,東京,大阪,名古屋の3取引所に才取会員会社(〈取引所会員〉の項参照)がある。有価証券の売買の取次ぎとは,自己の名をもって委託者の計算で有価証券を買入れまたは売却することを引き受けることをいい,証券会社の中心的業務になっている。有価証券の売買の代理とは,証券会社が委託者の名義で有価証券の売買を行うことを引き受けることをいう。(3)有価証券市場における売買取引の委託の媒介,取次ぎまたは代理とは,有価証券市場における売買取引が証券取引所の会員しか行えないこととされているため,取引所の会員でない証券会社が顧客からこのような売買の委託を受けた場合に,他の会員業者(証券取引所の会員である証券会社)に対し,売買の委託を媒介,取次ぎまたは代理することをいう。(4)有価証券の引受けとは,有価証券の発行に際し,これを売り出す目的をもって,その有価証券の全部または一部を取得し(買取引受け),または売残りがあった場合にそれを取得する(残額引受け)契約を結ぶことをいう。(5)有価証券の売出しとは,不特定かつ多数の者に対し均一の条件で,すでに発行された有価証券の売付けの申込みをし,またはその買付けの申込みを勧誘することをいう。引受けが新たに発行される有価証券を対象とするのに対し,売出しはすでに発行されている有価証券を対象とする行為である。(6)有価証券の募集または売出しの取扱いとは,他人が有価証券の募集または売出しをする際に,この者のために当該有価証券の取得の申込みの勧誘行為を引き受けることをいう。ここで募集とは,不特定かつ多数の者に対して均一の条件で,新たに発行される有価証券の取得の申込みを勧誘することをいう。引受けは,証券会社がその危険負担において証券を不特定かつ多数に売りさばく目的をもって買い取るのに対し,取扱いは,売残り等の危険を発行者の負担において証券会社が不特定多数の投資者に証券を売りさばくものである。

 証券業は,大蔵大臣の免許を受けた株式会社(証券会社)でなければ営むことができない。証券業の免許は次の4種類の業務別に与えられる。すなわち,業務別免許制が採られている。(1)有価証券の売買を行う業務(ディーラー業務。1号免許),(2)有価証券の売買の媒介,取次ぎおよび代理,ならびに有価証券市場における売買取引の委託の媒介,取次ぎおよび代理を行う業務(ブローカー業務。2号免許),(3)有価証券の引受けおよび売出しを行う業務(アンダーライター業務。3号免許),(4)有価証券の募集および売出しの取扱いを行う業務(セリング業務またはディストリビューター業務。4号免許)。一般に,大部分の証券会社は2種類以上の免許を受けている。なかでも上記のすべての業務を行うことを免許されている証券会社を総合証券という。ただし引受業務のうち幹事会社になれるのは資本金30億円以上の証券会社に限られるので,実際問題としては,これも総合証券の要件ということになる。証券業については,1948年の証券取引法制定以降いわゆる登録制が採られていたが,証券業の国民経済における重要性が増大したため,その経営基盤を強化するとともに,投資者保護のいっそうの徹底を図るために,65年の証券取引法の一部改正により免許制へ移行した。免許制は若干の経過期間をおいて68年4月1日より全面的に実施されている。証券会社は,証券取引法に基づき,大蔵大臣の免許を受けて証券業を営む株式会社であり,証券取引所と並び,有価証券の発行・流通市場を通じ中枢的役割を担っている。とくに公社債市場においては,近年の国債を中心とする公共債の大量発行に伴い流通市場も拡大急で証券会社は大きな役割を演じている。また,近年における証券市場の国際化の進展に伴い日本の証券会社の海外進出が著しく,日本企業の資金調達,外国投資家の日本の証券への投資等に重要な役割を果たしている。

 銀行,信託会社等の金融機関は,原則として,上記の証券業を営むことはできない。これは,預金者保護のため銀行がリスクの多い証券業を営むことは望ましくないという趣旨に基づくものである。他方,金融機関は,例外的に次の証券業を行うことが認められている。(1)銀行が顧客の書面による注文を受けて売買を行う場合,(2)自己の投資あるいは信託財産の運用として売買を行う場合,(3)国債,地方債,政府保証債の取扱いである。また,82年4月1日からは,銀行等が国債証券等に係る証券業務を営もうとするときは大蔵大臣の認可を要することとなり,他方,証券会社の兼業の範囲が拡大された。国債証券等に係る証券業務の認可を受けようとする金融機関は,次に掲げる事項を記載した認可申請書を大蔵大臣に提出しなければならない。商号(または名称),受けようとする認可の種類,本店所在地,その他大蔵省令で定める事項。これにより83年4月から銀行等の国債窓口販売が開始された。さらに93年の金融制度改革により,普通銀行,長期信用銀行,信託銀行,証券会社等は子会社方式で相互に参入することが可能となり,銀行系証券子会社が誕生するに至った。
証券会社
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「証券業」の意味・わかりやすい解説

証券業
しょうけんぎょう

有価証券の売買,その売買の媒介・取り次ぎ・代理,有価証券市場における売買取引の委託の媒介・取り次ぎ・代理,一定の市場デリバティブ取引および店頭デリバティブ取引(→金融派生商品)の取り扱いのうち,いずれかをなす営業(金融商品取引法28)。内閣総理大臣の登録を受けなければ営むことができない(29条)。金融機関は原則として証券業を営むことはできないが,証券業務を行なう場合は,個別に内閣総理大臣の登録または認可を受ける。金融商品取引法では証券業のほか,金融先物取引業などを網羅的に金融商品取引業とし,それらを行なう者を金融商品取引業者とする。また証券取引法で定めていた証券業にあたる第一種金融商品取引業と,「みなし有価証券」の売買など発行者みずからが新たに発行する有価証券に関する勧誘行為を行なう第二種金融商品取引業とを分類した。内閣総理大臣の認可を受けた認可金融取引業者協会が組織され,同協会は公正な有価証券の売買,その他の取り引きと,投資者の保護を目的とする(67条)。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android