精選版 日本国語大辞典 「悲・哀・愛」の意味・読み・例文・類語
かなし・い【悲・哀・愛】
① 死、別離など、人の願いにそむくような事態に直面して心が強くいたむ。なげかわしい。いたましい。
※人情本・仮名文章娘節用(1831‐34)三「よしない文を明て見たゆゑ、かなしさもかなしし胸がせまって、大きに泪をこぼしました」
② (愛) 男女、親子などの間での切ない愛情を表わす。身にしみていとおしい。かわいくてたまらない。いとしい。
※万葉(8C後)一八・四一〇六「父母を 見れば尊く 妻子(めこ)見れば 可奈之久(カナシク)めぐし」
※平家(13C前)一〇「子のかなしいも様にこそより候へ」
※読本・雨月物語(1776)吉備津の釜「十日ばかりさきにかなしき婦(つま)を亡なひたるが」
③ 関心や興味を深くそそられて、感慨を催す。心にしみて感ずる。しみじみと心を打たれる。
※万葉(8C後)一八・四〇八九「百鳥(ももとり)の 来居て鳴く声 春されば 聞きの可奈之(カナシ)も」
④ (連用形を副詞的に用いることが多い) みごとだ。あっぱれだ。
※古今著聞集(1254)一七「かなしくせられたりとて見あさみけるとなん」
⑤ (連用形を副詞的に用いることが多い) 他から受けた仕打ちがひどく心にこたえるさま。残念だ。くやしい。しゃくだ。
※無名抄(1211頃)「入道がしかるべからん時取り出でんと思ひ給つる事を、かなしく先ぜられにけり」
⑥ 貧苦が身にこたえるさま。貧しくてつらい。
※雑談集(1305)六「飢渇(けかつ)かなしくて、母と二人この墓(つか)にすむよし」
[語誌](1)「万葉集」には、死、離別、旅や孤独の悲哀を表わす用例とともに、愛情の表現としても用いられているが、東歌や防人歌ではほとんど後者の意に限られる。
(2)中世から近世にかけて、「たのし」が富裕の意を持つのに対応して、「かなし」に⑥のような「貧しい」という意味が生じた。
(2)中世から近世にかけて、「たのし」が富裕の意を持つのに対応して、「かなし」に⑥のような「貧しい」という意味が生じた。
かなし‐が・る
〘自他ラ五(四)〙
かなし‐げ
〘形動〙
かなしげ‐さ
〘名〙
かなし‐さ
〘名〙
かなし‐・ぶ【悲・哀・愛】
[1] 〘他バ上二〙 悲しく思う。嘆く。
※万葉(8C後)二〇・四四〇八「今日だにも 言問(ことどひ)せむと 惜しみつつ 可奈之備(カナシビ)ませば 若草の 妻も子どもも」
[2] 〘他バ四〙
① 悲しく思う。嘆く。あわれむ。
※観智院本三宝絵(984)上「王聞きて驚きて悲ひ泣きて涙を流し給ふ」
② (愛) いとおしむ。いとしがる。
※古今(905‐914)仮名序「かくてぞ、花をめで、鳥をうらやみ、かすみをあはれび、露をかなしぶ心、ことばおほく、さまざまになりにける」
※今昔(1120頃か)一九「形端正(たんじゃう)にして心に愛敬有けり。然れば父母も此を悲び給ふ事无限し」
③ 感動をもよおす。心をうたれる。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「その時に、山の主、俊蔭が琴の音をこころみて、かなしび給て、俊蔭を連ね給て二つといふ山に入給ふ」
[語誌](1)上代末に、形容詞「かなし」の語幹に接尾語「ぶ」の付いた上二段動詞として成立し、平安初期にバ行四段動詞となり、「かなしぶ」「かなしむ」と語形のゆれを生じる。
(2)「今昔物語集」以後、「かなしむ」が優勢に転じる。ともに漢文訓読語的、男性語的傾向の強い語であったが、平安後期以降「かなしむ」の用例数が増えるのにつれて、その傾向は薄れていく。
(2)「今昔物語集」以後、「かなしむ」が優勢に転じる。ともに漢文訓読語的、男性語的傾向の強い語であったが、平安後期以降「かなしむ」の用例数が増えるのにつれて、その傾向は薄れていく。
かなし‐・む【悲・哀・愛】
〘他マ五(四)〙
① かなしく思う。なげく。あわれむ。転じて、単に心情をあらわすだけでなく、それをあらわす行為をも含めた意味で用いられることもある。哀願する。
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)九「天恩矜み憫(カナシム)で降(くた)すに良医を以てす」
※徒然草(1331頃)一〇「烏の群れゐて池の蛙をとりければ、御覧じかなしませ給ひてなん」
② (愛) いとおしむ。いとしがる。
※今昔(1120頃か)二六「月満て端正美麗なる男子を産ば、父母、此を悲み愛して」
※浮世草子・好色五人女(1686)四「焼野の雉子子を思ふがごとく、妻をあはれみ老母をかなしみ」
③ 感動をもよおす。心を打たれる。
※宇津保(970‐999頃)菊の宴「おやの心かはりたるにより、一人あるをのこいたづらになしたることをおもしろうつくれり。ひと山の人かなしみののしる」
[語誌]→「かなしぶ(悲)」の語誌
かなしみ【悲・哀・愛】
〘名〙 (動詞「かなしむ(悲)」の連用形の名詞化)
① 悲しむこと。嘆くこと。なげき。
※延慶本平家(1309‐10)二本「此の僧都の悲みはわきまへ遣るべき方もなし」
※若菜集(1897)〈島崎藤村〉天馬「げに世の常の馬ならば かくばかりなる悲嘆(カナシミ)に 身の苦悶(わづらひ)を恨み佗び 声ふりあげて嘶かん」
② (愛) いとおしむこと。情愛。
※今昔(1120頃か)四「阿難答て云く、末世の衆生に祖子(おやこ)の悲み深き事を令知(しらしめむ)が為也。此、恩を知て徳を報ずる也と」
かなし【悲・哀・愛】
〘形シク〙 ⇒かなしい(悲)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報