纐纈(読み)コウケチ

デジタル大辞泉 「纐纈」の意味・読み・例文・類語

こう‐けち〔カウ‐〕【××纈】

奈良時代に盛行した絞り染めの名。布帛ふはくを糸でくくって浸染し、文様を染め出すもの。こうけつ。

こう‐けつ〔カウ‐〕【××纈】

こうけち(纐纈)

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精選版 日本国語大辞典 「纐纈」の意味・読み・例文・類語

こう‐けちカウ‥【纐纈・夾カフ纈】

  1. 〘 名詞 〙 飛鳥・奈良時代に行なわれた絞染(しぼりぞめ)の名。後世板締絞(いたじめしぼり)の類。女子の裳(も)唐衣(からぎぬ)に使用された。こうけつ。
    1. [初出の実例]「山水夾纈屏風十二畳」(出典:正倉院文書‐天平勝宝八年(756)六月二一日・東大寺献物帳)
    2. 「聟の冠者の君、何色の何摺りか好(この)う給(た)う、着まほしき、麹塵(きぢん)山吹止め摺りに、〈略〉かうけち前垂(まへだり)寄生木(ほや)の鹿(か)の子結ひ」(出典梁塵秘抄(1179頃)二)

こう‐けつカウ‥【纐纈】

  1. 〘 名詞 〙こうけち(纐纈)
    1. [初出の実例]「常の衣の上に、海賦に唐衣、かうけつの衣、平額なり」(出典:中務内侍(1292頃か)弘安一一年三月一五日)

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改訂新版 世界大百科事典 「纐纈」の意味・わかりやすい解説

纐纈 (こうけち)

絞染の古名。今日一般に,奈良時代の模様染を代表するものとして〈纈(きようけち)〉〈﨟纈(ろうけち)〉に加え纐纈の名を挙げるが,当時においては纐纈という名称はなく,単に〈纈〉と書き〈ゆはた〉と訓じているものがこれに当たると考えられる。例えば《一切経音義》に〈糸をもって繒(かとり)(上質の平絹)を縛り之を染め,糸を解いて文様を成すものを纈という〉とあるのは明らかに絞染を示している。纐纈という文字が文献にあらわれるのは,《西宮記》に見られる〈纐纈の裳〉のように平安中期以降のことのようである。なお,〈纐〉は日本でつくられた国字である。

 纐纈は裂地の一部を括(くく)ったり,縫い締めたりすることによって防染し,模様を染めだすものであるから,最も素朴な染色技法として日本にかぎらず,世界の各地で古くから行われてきた。例えばインドアジャンターあるいは中国のトゥルファンアスターナクチャの壁画などにしばしば一目絞り風の衣をまとった人物が描かれていることにも,この技術の広がりが知られる。また実物資料のうえでもアスターナからは中国の北朝から隋・唐代(およそ5世紀から8世紀)にわたる期間の纐纈が出土しており,それらが正倉院伝世の纐纈類にたいへんよく似ている点も興味深い。正倉院伝世の纐纈類を通観すると,一目絞りを斜めに並べたり,大小の一目絞りを花形に配して散らし模様としたごく簡単なものから,縫い締めによる七宝模様,さらに裂を折り畳んで板に挟んだ畳み染とか,芯に巻くとかして染めたと思われるものまであり,近世の絞染にみられる各種の技法の祖型が,当時すでにあったことが認められる。纐纈は絹,特に絁(あしぎぬ)や綾に染められたものが多く残っているが,麻布に染めたものもある。特に麻製の袍(ほう)に襷(たすき)形の大模様を染めだしたものは,今日の雪花絞りに相当する技法によるものであろう。纐纈は纈,﨟纈が平安時代に入ってまもなく衰退してしまったのに対し,その技術の素朴さゆえにその後も永く庶民の染織のなかに生き続け,ついには近世初頭の〈辻が花〉〈匹田絞り〉といったみごとな絞染へと発展していく。
絞染
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「纐纈」の意味・わかりやすい解説

纐纈
こうけち

奈良時代の絞り染めに対する名称であるが、当時の文献には「纐纈」という字はほとんど用いられておらず、単に「纈」となっている。これが文献のうえに表れるのは、平安前期(905)に完成した『延喜式(えんぎしき)』で「纐纈(中宮式)甲纈(酒造式)」とある。下って平安末期(12世紀初頭)の『今昔物語集』に、慈覚大師が唐土で人血を絞って纐纈を染めている「纐纈城」を訪れる物語がある。また有職(ゆうそく)では「纐纈裳(こうけちのも)」ということばが、江戸時代まで行われている。

 奈良時代の纐纈の唯一の実物資料である正倉院のものをみると、技法は全体に素朴で、現存の資料による限りでは、その種類は少なく、文様も変化に乏しい。目交(めゆい)文風な括(くく)り絞りが多く、ほかには巻絞り、縫締め絞り、また裂地(きれじ)を折り畳んで両側から板の小片で挟み締める板締め絞りなどがあるが、三纈といわれるなかの﨟纈(ろうけち)、夾纈(きょうけち)と比べてみると、技術の精巧さや、文様の多様さにおいては、とうていこの二者には及ばない。生地(きじ)は絁(あしぎぬ)が多く、綾(あや)、麻は少ない。実際に使用されているところも、衣料や褥(じょく)の裏地など、あまり表だたないところが多い。しかしこの素朴さゆえに、平安時代以後に、﨟纈や夾纈が織物一辺倒の貴族服飾の世界から脱落、衰亡したなかにあって、主として庶民衣料のなかにその技術が残って、日本の絞り染めの伝統が受け継がれてきたということができる。「纈」「纐纈」といっても、それは結局、絞りの技術が素朴で細分化されていない時代に、今日われわれが「絞り染め」といっているように、総括的な意味で用いられたことばであろう。

[山辺知行]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「纐纈」の意味・わかりやすい解説

纐纈
こうけち

交纈とも書く。絞染のこと。糸や紐で布をくくったり,縫糸をしごいたりして染液に浸し,水洗いや乾燥ののちその糸や紐を解いて模様を表わす。臈纈 (ろうけち) ,夾纈 (きょうけち) と並んで三纈といわれ,古来,基本的防染法の一つとされた。発生は古くインドとされ,中央アジア,中国を経て7世紀の飛鳥時代に日本に伝えられた。『万葉集』にはすでに「ゆはた (結幡) 」の語がみえ,『源氏物語』には「目染め」,『平家物語』にも「滋目結 (しげめゆい) 」の記述がある。鹿の子絞りや疋田絞りのことである。また近世の文献にも纈 (ゆはた,くくり) などの文字がみえ,布をゆわえて染模様としたことがわかる。江戸時代の友禅染の原型ともいわれる辻が花染も,縫締絞りを主体とした絵模様である。

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百科事典マイペディア 「纐纈」の意味・わかりやすい解説

纐纈【こうけち】

絞染の古名。絞染の技法はインドから中国を経て日本に伝えられたと考えられるが,奈良時代には【きょう】纈(きょうけち),臈纈(ろうけち)とともに代表的な模様染であった。その遺品が正倉院,法隆寺などに多数保存されている。
→関連項目染物

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世界大百科事典(旧版)内の纐纈の言及

【絞染】より

…布を結ぶので上代人は結帛(ゆいはた∥ゆはた)と呼んでいたが,奈良時代に大陸から高度な技術が導入され,目交(めゆい),大纈,小纈,夾纈(きようけち),甲(絞)纈などの名称が文献に現れる。目交,大・小纈は鹿の子絞に似たもので,正倉院に伝来する紅色地目交文纐纈(こうけち)はアスターナ古墳出土の紅色絞纈絹と類似するのをはじめ,唐代の絞纈と技法や文様の類似する遺品が正倉院宝物中に見られる。夾纈は模様を彫った型板に布をはさんで染料を注ぐ板締絞である。…

【染色】より

…また屛風の袋には麻に摺文(すりもん)を置いたものが使われているし,箱の袋などにも﨟纈の裂が使われている。第2は752年(天平勝宝4)の大仏開眼の大法会に用いられた楽装束で,錦や綾,羅,紗,絹,絁,麻など種々の裂地が使われており,(夾)纈﨟纈纐纈(こうけち)で種々の文様を染め上げたものがみられる。第3は757年(天平宝字1)の聖武天皇一周忌斎会における仏殿荘厳の幡(ばん)の類で,錦や綾や羅,平絹が用いられ,纈や刺繡,彩絵などが施されているものがある。…

※「纐纈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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