改訂新版 世界大百科事典 「アオガエル」の意味・わかりやすい解説
アオガエル (青蛙)
アオガエル科Rhacophoridaeのうち,とくに緑色をしたカエル類の総称。アオガエル類の大半は樹上性で,体長8cm前後の比較的大型が多く,雄は少し小さい。本州,四国に分布し,変わった産卵習性の持主として知られるモリアオガエルRhacophorus arboreusは,形態,生態ともにアオガエルの典型的なタイプといえよう。四肢の各指には吸盤が発達し,体の背面は黄緑色から濃緑色あるいは褐色がかった緑色まで,環境に応じて体色を変化させる。山地性で,繁殖期以外はほとんど水に入らず樹上にすむ。初夏の夜,池などに群れが集まり,水面に垂れた枝に,直径15cmほどのメレンゲのような白い泡状の“巣”を多数ぶら下げる。南西諸島に分布するオキナワアオガエルR.a.viridis,ヤエヤマアオガエルR.owstoni,アマミアオガエルR.v.amamiensisの3種類は,昼の太陽が照りつけるバナナの葉に休んでいるのをよく見かけるが,1~5月ごろシダ類の葉の上や水辺の地上に泡状の卵塊を産みつける。体長4~6cmでやや小型の日本本土産シュレーゲルアオガエルR.schlegeliは,泡の卵塊を水田のあぜ道などの地中の穴に産むが,卵塊は増水によって水面に流れ出る。極端に発達した四肢の水かきをパラシュートのように広げ,樹上から滑空することで知られる東南アジア産のトビガエルR.reinwardti(英名gliding frog)は,数枚の木の葉を合わせてその間に泡の卵塊を産みつける。別属で中国四川省にすむオーメイアオガエルPolypedates omeimontesの場合は,木の葉にくっつけて卵塊を産むが,泡の量が少なく卵が外から見える。シロアゴガエルP.leucomystaxは戦後沖縄本島に人為的に運ばれ定着した種類で,泡状の卵塊を水辺の地上に産む。原産地は東南アジアなど。八重山諸島の森林深くに生息するアイフィンガーガエルChirixalus eiffingeriは体長3~4cm,白い大きな目をした種で,昼間は小さな樹洞に隠れている。繁殖期は長く,春から夏にかけて数十個の大粒卵を樹洞の水たまりの水面上に産みつける。孵化(ふか)した幼生は半透明で歯列がほとんど退化し,安全な樹洞の水たまり中で微生物などを餌として育つ。日本・台湾産のカジカガエル属Buergeriaは,体色が褐色系で渓流の近くなど地上にすみ,吸盤は渓流の岩場での滑り止めに役だっている。そのほかアフリカ中・南部の森林にはハイイロモリガエル属Chiromantisの3種が生息し,アオガエル類と同様の産卵習性が見られる。アオガエル科には10属約200種が含まれるが,マダガスカル島に分布する4属69種は,現在はマダガスカルガエル科Mantellidaeに分けられている。体長2~3cmの小型ながら美しい黄金色をしたキンイロガエル属Mantellaなどの珍種が含まれている。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報