アカガイ(その他表記)Scapharca broughtonii

改訂新版 世界大百科事典 「アカガイ」の意味・わかりやすい解説

アカガイ (赤貝)
Scapharca broughtonii

大型でよく膨らんだフネガイ科の二枚貝アサリハマグリなどと異なり,血液にヘモグロビンを含み,肉が赤みを帯びるのでアカガイという。殻の高さ9cm,長さ12cm,膨らみ7.5cmに達し,白色だが,殻頂から42本内外の太い肋が出ている。黒褐色の粗い毛の生えた皮で覆われ,両方の殻のかみ合せはまっすぐで多数の小さい歯が1列に並び,殻を閉じると互いにかみ合う。また下側の縁は丸く膨らむ。内面は白色。足は大きく,先端が狭く平らになる。北海道南部から九州,朝鮮半島に分布し,陸奥湾,仙台湾,東京湾,瀬戸内海,博多湾,有明海大村湾など内海が主産地。水深3~30mの砂泥底にすみ,海中の懸濁有機物を食べる。産卵期は夏季水温20℃くらいで産卵する。稚貝海藻貝殻などに足から糸を出して付着するが,5mmくらいに成長すると海底に落ちて砂泥に潜りすむ。1年で5.7cm,2年で7.6cm,3年で8.3cmほどになる。肉は刺身,すし種や酢の物などにする。赤貝飯に使われるのはアカガイでなくサルボオガイのことが多く,一般的にはこの両種は混同されている。近縁種サトウガイ(別名マルサルボオ)S.satowiは殻が厚く,肋数は38本内外で,九十九里相模湾など外海にすみ,食用とされるが,アカガイと産地が違うので,東京などではバッチ(場違いの意),またアカガイの本玉(ほんだま)に対して白玉ともいう。クマサルボオS.globosa ursusは四角形状で厚く,肋数は34本内外,瀬戸内海,有明海,大村湾が主産地である。

天然採苗では網袋を海底近くにつるすと,8月ごろに稚貝が付着する。1.2mmほどの稚貝が2ヵ月で12.6mm,半年で27.6mm,1年で43.4mmに成長。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アカガイ」の意味・わかりやすい解説

アカガイ
あかがい / 赤貝
ark shell
bloody clam
[学] Scapharca broughtonii

軟体動物門二枚貝綱フネガイ科の食用二枚貝。軟体はヘモグロビンを含むために赤いので、この名がある。北海道以南から九州までの日本各地のほか、朝鮮半島、中国沿岸に分布し、内湾の水深5~50メートルぐらいの泥底にすんでいる。殻長12センチメートル、殻高9センチメートル内外で、両殻はよく膨らみ、殻表には42本内外の放射肋(ろく)があり、黒褐色の粗い毛の生えた殻皮で覆われている。両殻の殻頂の間には狭くて長い黒色の靭帯(じんたい)面がある。殻の前縁は丸く、後縁は斜めに切断状。かみ合わせはまっすぐで小さい歯が多数並ぶ(多歯式)。腹縁は丸くカーブし、肋に応じて刻まれ、左右かみ合う。内面は白色で光沢はない。産卵期は夏季、水温20℃ぐらいで産卵し、沈着した稚貝は海底にある沈木や貝殻、ゴカイ類の棲管(せいかん)などに足糸で付着しているが、殻長5センチメートルぐらいになると泥底に移る。孵化(ふか)後1年で5.7センチメートル、2年で7.6センチメートル、3年で8.3センチメートルぐらいになる。陸奥(むつ)湾、仙台湾、東京湾、瀬戸内海および有明海などが主要な産地であったが、最近は韓国からの輸入に頼ったり、近縁種のサトウガイS. satowi(市場では、白玉とか、ばっちとよばれる)などを代用とする。

 養殖用の採苗にはカキやイタヤガイの殻を利用したり、シダなどの枝や化学繊維(マブシという)を、タマネギ出荷用の網袋に入れて海中に懸垂設置し稚貝を集める。中間育成はかごの中のマブシに付着した1~1.2ミリメートルの稚貝を沖のブイにつないだ綱からつるして育てる。3~7月ごろ、殻長20~50ミリメートル程度の幼若貝を天然漁場に放流し育成するか、または、野菜用のかごに入れて海底に延縄(はえなわ)式に設置し管理養殖をしている。

[奥谷喬司]

調理

アカガイを調理するには、包丁の峰で貝の丁番(ちょうつがい)の部分(靭帯面)を押してちょっと開き、貝殻を離し、身の入っていない貝殻で他の貝殻のアカガイの身をすくい取る。貝柱も、貝殻で貝の中心方向に押すと容易に外れる。刺身、すしだね、酢の物など、生食が美味である。

[多田鉄之助]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アカガイ」の意味・わかりやすい解説

アカガイ
Scapharca broughtonii

軟体動物門二枚貝綱フネガイ科。殻長 12cm,殻高 9cm,殻幅 7.5cmに達する大型種。殻はよくふくらみ,殻頂の間の平らな靭帯面は狭くて前後に長い。殻表は黒褐色のあらい毛の殻皮でおおわれ,42本内外の放射肋がある。内面は白色で,小さい 鉸歯が並ぶ。また腹縁は殻表の肋に応じて刻まれる。軟体は血液中にヘモグロビンを含み橙赤色で,特に足は色が濃い。夏季に水温 20℃ぐらいで産卵し,稚貝は海藻や貝殻に足糸で付着するが,殻長 0.5cmぐらいに成長すると泥底にすむ。成長は,1年で殻長 5.7cm,2年で 7.6cm,3年で 8.3cmになる。陸奥湾,仙台湾,東京湾,瀬戸内海,博多湾,大村湾,有明海などが主産地。

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百科事典マイペディア 「アカガイ」の意味・わかりやすい解説

アカガイ(赤貝)【アカガイ】

フネガイ科の二枚貝。殻の高さ9cm,長さ12cm,ふくらみ7.5cmでよくふくらんでいる。殻表の肋(ろく)は42本内外,内面は白色,かみ合せに多くの歯がある。北海道南部から九州,朝鮮半島の内湾の深さ3〜30mの砂泥底にすみ,海中の懸濁有機物を食べる。けた網で採取する。養殖も行われている。産卵期は夏。アカガイの名のとおり,肉は赤いが,これは血液中にヘモグロビンを含むため。味がよく,刺身やすし材料。赤貝飯に使われるのはアカガイではなくサルボオガイのことが多い。

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栄養・生化学辞典 「アカガイ」の解説

アカガイ

 [Scapharca broughtonii].フネガイ目アカガイ属の海産の二枚貝で広く日本の沿岸でとれる.鮨,酢の物などにする.

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世界大百科事典(旧版)内のアカガイの言及

【貝】より


[文学,遊芸]
 《古事記》には八十神に大火傷を負わされ死んだ大国主神が,貝比売(きさがいひめ)(貝)と蛤貝(うむぎ)比売の介抱によって息を吹きかえした物語が見える。貝はアカガイ,蛤貝はハマグリのことである。《日本書紀》景行天皇条には,天皇が東征のとき,白蛤のなますを食べたことが記されている。…

※「アカガイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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