ある特定の文化が別の異質文化に包摂されたり、またはある特定の文化を担う集団ないし個人が別の異質文化の担い手の一部分になる現象を、生物の同化現象と区別して社会的同化、または単に同化assimilationという。異なる複数の文化が、元の各文化とは別の等質的な文化を、強制を伴わず自発的につくりだす現象は、統合integrationといわれる。同化と統合は分析ないし理論上の概念としては区別されるが、現実には区別しにくい場合が多い。また強制と自発性は多くの場合、とくに個人については実際には複合している。同化は、自発的にか強制されて文化の違いを調整するなかで現れるのであるが、普通、強制は法、慣習、行政措置を通して、なんらかの抑圧ないし懐柔を伴っており、強制の程度は強弱さまざまである。こうした強制を政策として制度化したものが同化政策である。
同化は吸収か融合の形をとる。「吸収」の場合、強大ないし支配的な集団は弱小ないし従属的な集団に自らの文化を一方通行の形で強制し、最終的には後者の独自な伝統文化(言語、文字、宗教、芸術、価値観、習俗など)と統一性を喪失させる。日本政府は、明治以来一貫して同化政策を取り続け、植民地時代の朝鮮人に日本語、創氏改名、神社神道(しんとう)などを強制して激しく抵抗されたし、またアイヌ文化を絶滅に近い状態に追い込んだ。多くの場合、従属集団は「吸収」されるが、逆の場合もある。たとえば中国の清(しん)朝では、支配集団である満族(満洲族)は支配下に置いた漢族の同化に成功せず、むしろほとんど漢文化に「吸収」された。同化政策の不条理を見直し、異質集団の独自文化を尊重する国際的潮流が高まったのは、第二次世界大戦後である。たとえばアメリカ合衆国とオーストラリアでは、国内におけるアングロ・サクソン文化とは異質の文化を抹殺ないし蔑視(べっし)する当初の政策は、その後同化政策に転じ、20世紀後半から独自文化を尊重するようになった。社会主義諸国(旧ソ連、中国など)の少数民族政策は、当初から各民族の独自文化を尊重し育成している。
他方、「融合」は、政策として施行されるにせよ民衆の自発性に基づくにせよ、集団間の支配・従属関係があるにせよないにせよ、また衝突するにせよ平和裏にせよ、異質集団間の相互調整を経て、別の新しい等質文化が生まれる現象である。現在の世界秩序を支える単位としての国民国家、およびその担い手である民族と称されるものの形成過程には、多かれ少なかれ「融合」の現象がみられたし、今日それが加速されている。したがって厳密にいえば、日本をも含めて、純粋に単一の文化をもつ国民国家も民族も存在しない。その意味で、大局的にみれば、同化政策は、人類史に普遍的な「融合」という大舞台のうえで短期的、局地的に機能したのであるが、漸次歴史の舞台から消えようとしている。
[鈴木二郎]
1991年12月にソ連が崩壊し、冷戦が終結した後、ロシアではチェチェン紛争、旧ユーゴスラビアでは「民族浄化」と称した悲惨な事件が発生し、同化政策に反対する民族独立闘争が顕在化している。中国においても、チベット、ウイグル、モンゴルのそれぞれの民族が漢民族とは違う独自の文化を守ることを主張し、自由と人権を求める運動が激化している。
また、国際連合においては、1980年代から、先住民への差別撤廃、人権擁護に対する取組が進められ、2007年9月に「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が総会で採択された。また、2008年2月にオーストラリア政府が、同年6月にカナダ政府がともに、過去の同化政策に対してその誤りを認め、先住民に対して公式謝罪を発表した。
[編集部]
『M. M. GordonAssimilation in American Life (1964, Oxford Univ. Press, N.Y., U.S.A.)』▽『鈴木二郎著『同化と保護政策の回顧』(旭川人権擁護委員連合会編・刊『コタンの痕跡』所収・1971)』
ある支配集団が他の集団を自己の文化になじませようとする政策。この政策の主体は,政治・経済・文化に支配的な勢力集団であり,その客体は,少数民族集団や被支配(民族)集団などである。一般に,同化とは支配集団と被支配集団との不均等な文化的相互作用,融合作用の過程を意味する。その点で,異質な文化集団との接触によって,その影響下に引き起こされる〈文化変容〉とは異なる。同化政策は,他国家,他民族への征服にともなって,歴史上さまざまな形で部分的には行われてきたが,典型的なものは近代国民国家による植民地経営を契機とする。同化政策は,植民地本国や支配的民族が植民地原住民や国内の少数民族を自己の生活様式や文化形態に併合させることによって,支配・搾取をめざす植民地政策の中核となった。同化政策は一般に次の2形態に分類できる。
(1)直接型 植民地原住民の生活に直接的に介入して,自国の文化を強制的に押しつけて同化をはかろうとするもの。フランス領アフリカ(アルジェリアを除く),第1次大戦前のインドシナ,ポルトガル領アフリカ,日本の朝鮮・台湾支配などがその例である。日本の場合,朝鮮の民族語教育は抑圧されて日本語教育が強制され,朝鮮の歴史教育をゆがめ,各地に神社を建て,創氏改名を実質的には強制するなどの皇民化政策を行った。(2)間接型 基本的には少数民族の言語,伝統などの固有性を認めつつも,非強制的ながらも支配民族の文化の浸透をめざすもの。中国や旧ソビエトの少数民族,アメリカの移民,フランスのアルジェリアや第1次大戦後のインドシナなどに対する政策がその例である。フランスのインドシナ統治には,遅れている文化的水準を引き上げようという考えがあったといわれる。しかし,同化政策が文化的であると同時に政治的要因を強くもっている以上,原住民からの拒否や不服従運動から免れえない。
執筆者:星野 昭吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…日本の植民地統治の下で朝鮮人を戦時動員体制に組み込むためにとられた一連の政策。日本の朝鮮支配の基本方針は同化政策と呼ばれ,朝鮮人の民族性を抹殺し,〈亜日本人〉化することにあった。満州事変から日中戦争へと侵略戦争の拡大とともに,この政策はより強化徹底され,特に日中戦争以後はその極限化として,朝鮮人を完全なる〈皇国臣民〉たらしめんとする〈内鮮一体〉が提唱されるに至った。…
※「同化政策」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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