日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブーレーズ」の意味・わかりやすい解説
ブーレーズ
ぶーれーず
Pierre Boulez
(1925―2016)
フランスの作曲家、指揮者。中部フランス、ロアール県のモンブリゾンに生まれる。パリ音楽院でメシアンに和声を、作曲家オネゲルの夫人に対位法を、レイボウィッツに十二音技法を学ぶ。1946~1956年、ルノー・バロー劇団の音楽監督を務め、1954年には同劇団の協力を得てパリに現代音楽連続演奏会「ドメーヌ・ミュジカルDomaine Musical」を組織してその運営と指揮にあたり、1955年初演の『主なき槌(つち)(ル・マルトー・サン・メートル)』Le Marteau sans maîtreで作曲家としての地位を確保する。ノーノ、シュトックハウゼンとともに、ダルムシュタット夏期音楽講座の中心人物として、非常に大きな影響力を残す。その作風は、ウェーベルンのセリー技法を拡大したトータル・セリエリズムの技法に基づく、きわめて繊細で感覚的な書法を特徴とする。
代表作に『ストリュクチュール』Structures(第1集1951、第2集1956~1961)、『エクラ』Éclats(1964)、『プリ・スロン・プリ』Pli Selon Pli(最終稿1969)などがある。1970年代後半から1991年にかけては、パリのポンピドー・センターの音楽研究所IRCAM(イルカム)初代所長を務めた。研究所の巨大なコンピュータを用いた作品『レポン』Répons(1981~1986)は、生(なま)のオーケストラ音をリアルタイムで電子的に加工してスピーカーを通して聴くという試みで、1980年代のコンピュータ音楽の代表といわれている。1960年代以来、ブーレーズはフランス現代音楽の事実上のリーダーを務めた。また指揮者としてもきわめて高名であった。1967年(昭和42)以来、数度来日した。
[細川周平 2016年1月19日]
『店村新次訳『意志と偶然』(1977・法政大学出版局)』▽『船山隆・笠羽映子訳『ブーレーズ音楽論――従弟の覚書』(1982・晶文社)』▽『笠羽映子・野平一郎訳『参照点』(1989・書肆風の薔薇)』▽『笠羽映子訳『現代音楽を考える』(1996・青土社)』▽『笠羽映子訳『標柱音楽思考の道しるべ』(2002・青土社)』▽『フェーリックス・シュミット著、高辻知義訳『音楽家の肖像――作曲家と演奏家の工房から』(1987・音楽之友社)』▽『磯田健一郎著『近代・現代フランス音楽入門』(1991・音楽之友社)』▽『ミケル・デュフレンヌ著、桟優訳『眼と耳――見えるものと聞こえるものの現象学』(1995・みすず書房)』▽『吉田秀和著『吉田秀和全集5 指揮者について』新装復刊版(1999・白水社)』▽『Dominique Jameux, Susan Bradshaw:Pierre Boulez(1990, Harvard University Press)』▽『Jean Vermeil, Camille Naish:Conversations with Boulez;Thoughts on Conducting(1996, Amadeus Press)』