日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウォートン」の意味・わかりやすい解説
ウォートン
うぉーとん
Edith Wharton
(1862―1937)
アメリカの女流作家。ニューヨーク市の富裕な名門の出身で、家庭教師について学び、しばしばヨーロッパに渡り、晩年はパリで生活した。1885年にボストンの銀行家と結婚、やがて短編小説を書き始め、生涯にわたってこのジャンルを手がけた。最初の長編は、18世紀のイタリアを舞台にする『決断の谷間』(1902)であるが、パリで知り合ったH・ジェームズの勧めもあって、彼女がよく知るニューヨークの上流社会を題材とする作品を次々と発表することになった。その第一作『歓楽の家』(1905)は、社交界で金持ちの男と結婚しようとして破滅する女性の悲劇を描き、逆に『汚れなき時代』(1920)は、上流社会の因襲のとりこになっていく男の不幸を描き、この作品で女性としては初のピュリッツァー文学賞を受けた。『国の習慣』(1913)はアメリカとフランスを舞台に国際的テーマを扱い、有名な中編『イーサン・フローム』(1911)はニュー・イングランドの農村を舞台に愛欲の悲劇を描く。そのほか、小説作法を論ずる評論集、旅行記、自伝、多くの短編集、死後発表された未完の小説1編がある。
[八木敏雄]
『佐々木みよ子著『戦慄と理性――イーディス・ウォートンの世界』(1967・研究社出版)』