ウミヘビ(硬骨魚綱)
うみへび / 海蛇
snake eels
硬骨魚綱ウナギ目ウミヘビ科の総称。世界の温帯から熱帯の沿岸域に生息し、52属約290種が報告されている。日本近海には約30種が知られており、以下のような点で特徴づけられる。体はほぼ円柱状で細長い。後鼻孔(こうびこう)は上唇を貫通してその縁辺に、またはその内側に開く。鰓条骨(さいじょうこつ)は多くて15~49対(つい)あり、左右のものは腹中線に沿って重なる。のどの腹壁に籠(かご)のような構造物(jugostegalia)を形成する。神経骨はあまり発達しないか、または欠く。
本科はニンギョウアナゴ亜科Myrophinaeとウミヘビ亜科Ophichthinaeの2亜科に分類される。ニンギョウアナゴ亜科魚類は尾びれがあり、背びれと臀(しり)びれに癒合し、尾端が柔軟である。胸びれはない種がいる。鰓孔(さいこう)は体の側面に開口している。この亜科には世界から11属いるが、日本からミミズアナゴ属、ミナミミミズアナゴ属、ムカシウミヘビ属およびニンギョウアナゴ属の4属に8種が知られている。ウミヘビ亜科は尾びれがなく、尾端がとがって硬い。鰓孔位置は側面から腹面までさまざまである。世界から41属が知られ、そのうち日本にはトガリウミヘビ属、ヒモウミヘビ属、ハクテンウミヘビ属、ゴマウミヘビ属、ボウウミヘビ属、ダイナンウミヘビ属、ソラウミヘビ属、ゴイシウミヘビ属、ウミヘビ属、ミナミホタテウミヘビ属、ヒレアナゴ属、タツウミヘビ属およびヒモウミヘビ属の13属に29種が知られている。
ウミヘビ類もウナギ類やアナゴ類と同様に変態するが、レプトセファルス(葉形(ようけい)幼生)は一般に体が適度に細長く、消化管の途中には種類によって、3個以上の膨らみまたはへこみをもち、筋節数が100以上あることが著しい特徴となる。河口域、サンゴ礁など沿岸の浅海から水深1500メートルほどの深海までの砂底から泥底域にすむ。夜行性で、夜間活動して小動物を貪食(どんしょく)し、昼間は海底に潜入する習性がある。多くの種は硬い尾端で泥底に孔(あな)を開けて潜り、前進と後退をしながら泥の中を活動していると考えられている。とくに尾端がとがった硬い種では速やかに潜入するのに適応している。このような習性から腹びれや鱗(うろこ)がなくなり、胸びれを欠く種もある。ニンギョウアナゴ亜科のGlenoglossa wassiは海底に潜り、頭だけ出して、長い舌を口外に突出させて、舌の先が変形してできた擬似餌(ぎじえ)で餌(えさ)の魚を誘うことが知られている。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
ウミヘビ(爬虫綱)
うみへび / 海蛇
sea snake
爬虫(はちゅう)綱有鱗(ゆうりん)目コブラ科ウミヘビ亜科およびエラブウミヘビ亜科に属するヘビの総称。両亜科の仲間は有毒ヘビで、15属53種ほどがペルシア湾、インド洋から西太平洋、サンゴ海の暖かい海岸に分布し、一部が中央アメリカの太平洋沿岸に達している。魚類にもウミヘビの和名をもつグループがあり形態も似るため、しばしば混同される。ルソン島のタール湖に陸封された1種が淡水に生息するほかは、すべて海生である。ウミヘビは陸生のコブラ科の毒ヘビから分化したものと考えられ、すべて上あごに1対の溝牙(こうが)を備える前牙類に属する。独立したウミヘビ科にまとめられることもあるが、近年ではコブラ科に含まれ、口蓋骨(こうがいこつ)、尾部、歯骨の形態的な相違などから、エラブウミヘビ亜科Laticaudinaeとウミヘビ亜科Hydrophiinaeの2群に大別される。エラブウミヘビ亜科は典型的なウミヘビよりも起源が新しく、東南アジア産の毒ヘビのシマサンゴヘビ属Maticoraやワモンベニヘビ属Calliophisと同系統の祖先型に由来するものと考えられ、多分に陸ヘビの形質を残している。すなわち、胴の断面は円形で、腹板の幅も広く、鼻孔は頭部側面に開口する。尾はひれ状に側扁(そくへん)するが、単に皮膚の変化したもので、尾椎(びつい)突起に支えられない。卵生で、陸でも活発に行動する。ウミヘビ亜科のウミヘビは、オーストラリア産毒ヘビのアカオヘビ属Demansiaとの共通祖先型から古い時代に分化したものと考えられ、大部分は海洋生活に適応した形態をしている。すなわち、頭部は小さく、胴は後部ほど側扁し、ひれ状の尾は尾椎の棘(とげ)状突起に支えられている。鼻孔は頭頂部に開口し、肺は細長く伸びて、その後室がほとんど総排出腔(こう)近くまで達するものもある。腹板は退化して幅狭く、ほとんど他の鱗(うろこ)と区別できないものもある。すべて卵胎生で、生涯を海で過ごす。
日本の近海に産するウミヘビは9種で、主として南西諸島沿岸のサンゴ礁付近に分布し、餌(えさ)はもっぱら魚類である。エラブウミヘビLaticauda semifasciata(全長1~1.5メートル)とヒロオウミヘビL. laticaudata(全長約1メートル)はアジア海域に広く分布し、南西諸島ではもっとも生息密度の高い種類で、夏から秋にかけて産卵のため上陸し、湿度の高い洞穴内に産卵する。卵は長径7~8センチメートルと大きく、孵化(ふか)には5か月ほどを要する。クロガシラウミヘビHydrophis melanocephalus(全長約1.2メートル)の仲間は人にかみつくため、おとなしいエラブウミヘビとは区別して、「海ハブ」とよばれている。
東南アジアやオーストラリア近海にはより大形で危険な種類が分布している。セグロウミヘビPelamis platurusは北海道近海まで北上するが、外洋性で、もっとも遊泳力が優れたものの一つである。エラブウミヘビなどは食用に供されるほか、薫製として強壮剤に用いられ、那覇の市場でも売っている。沖縄の久高(くだか)島におけるイザイホーの神事には、イラブとよばれるエラブウミヘビとマダラとよばれるヒロオウミヘビの伝統的な薫製作りが、欠かせない行事となっている。しかし、イザイホーは1978年(昭和53)以降、後継者不足で行われていない。
[松井孝爾]
沖縄ではイラブといい、第二次世界大戦前までは春・秋の気候の変わり目に「いらぶしんじ」や「いらぶのお汁」をつくって食べたものである。イラブには多種の重要アミノ酸が含まれ、骨の形成に絶対不可欠なカルシウムなども含んでいるため、子供の成長、妊産婦、体力を消耗するときなどの栄養補給の食品として、今日でもその人気が衰えない。
イラブと昆布をいっしょにして4~5時間煮込みながら煎(せん)じたものを「いらぶしんじ」といい、またそれに根菜類、豚足(てびち)、鶏肉などを入れて味つけしたものを、「いらぶのお汁」とよんでいる。
[渡口初美]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
ウミヘビ (海蛇)
sea snake
一生を海で過ごす毒ヘビ類の総称。魚類のウミヘビと混同されることがよくあるが,爬虫類のヘビの仲間である。ウミヘビ類は〈海のコブラ〉と呼ばれるように,形質がコブラ類と類似した点が多く,陸生のコブラ類から進化したものと考えられており,コブラ科のウミヘビ亜科Hydrophiinaeとエラブウミヘビ亜科Laticaudinaeに分けられている。ウミヘビ類は15属53種がペルシア湾,インド洋から西太平洋,オセアニアの暖かい海域に分布し,一部が中央アメリカの太平洋沿岸に達している。日本では南西諸島沿岸にクロガシラウミヘビHydrophis melanocephalus(全長1.2m),イイジマウミヘビEmydocephalus annulatus iijimae(全長0.8m)など9種・亜種が記録されている。ボンボンウミヘビH.semperi(全長1.2m,クロガシラウミヘビの陸封型とも考えられている)1種がルソン島のタール湖の淡水に生息するほかは,すべて海にすむ。
ウミヘビ亜科には,ウミヘビ類の大部分の48種が含まれる。海洋生活に適応した形態で,頭部は小さく,胴は後方ほど側扁して尾はひれ状となる。鼻孔は頭頂部に開口し,腹板は退化して幅狭く,セグロウミヘビPelamis platurus(全長1m)のようにほとんど他の体鱗と大きさが変わらない種類もある。セグロウミヘビは海洋生活にもっとも適応した1種で,遊泳力が優れ,東アフリカ沿岸からメキシコ太平洋岸まで広範囲に分布している。本種は外洋性の回遊魚類と同様に背面は青みがかった黒色,腹面は黄白色に色分けされ,海面近くを遊泳している。そして頭と尾をわずかに下げて浮遊物のように浮かび,下側に集まってくる小魚類をとらえる。日本近海にも回遊し,出雲地方では11月中旬ごろに季節風に乗って海岸に漂着するセグロウミヘビをホンダワラを敷いた三方に乗せ,竜神として神社に奉納する習わしがある。
ウミヘビ類はすべて毒性が強く,毒は神経毒を主成分としている。オーストラリアや東南アジアには攻撃性の強い危険な種類が分布するが,大半は性質が温和。生涯上陸することなく沿岸近くの岩礁にすむが,遠く沖合に出るものや魚群の多い河口近くに集まるものもあり,海面で日光浴するものもある。繁殖期には大群が海面下に長い列をつくったり,コイル状に絡み合う。大半が卵胎生で2~6匹ほどの子ヘビを生む。
エラブウミヘビ亜科はエラブウミヘビLaticauda semifasciata(全長1.2m)など5種類だけが含まれる。真のウミヘビ類より起源が新しく,系統の異なる東南アジア産のシマサンゴヘビ類Maticoraが祖先型と考えられている。陸ヘビのなごりが多分にあって,鼻孔は頭側に開口し,腹板の幅も広い。また卵生で陸に上がって産卵する。サンゴ礁近くに多く,昼夜ともに魚をとらえるが,昼間は岩礁に隠れることが多い。索餌(さくじ)はおもに嗅覚(きゆうかく)によるものでそのため海中でも舌を出し入れさせる。沖縄地方ではウミヘビは食用にされるほか,薫製にして民間薬用に用いられる。
執筆者:松井 孝爾
ウミヘビ (海蛇)
snake eel
serpent eel
ウナギ目ウミヘビ科Ophichthidaeに属する海産魚の総称。関東以南に広く分布し,日本近海には約30種が知られている。体は円柱状で細長く,その名のようにヘビに似ているが,皮膚にうろこがなく,この点でも爬虫類のウミヘビとはおおいに異なる。腹びれはなく,ミミズアナゴ,ヒモウミヘビなどのように胸びれもないものがある。尾びれも退化し,まったくないものが多い。潮間帯の潮だまりや砂れき底,岩礁,やや深い砂泥底などにすみ,日中は物陰や海底に潜み,夜間活動する。どの種類もほとんど食用とされず,利用価値はない。
ダイナンウミヘビOphisurus macrorhynchusは本州中部以南で,機船底引網によりしばしば漁獲される。体は長く,ウミヘビ類の中でももっとも大きく,全長160cmに及ぶものもある。頭部も長く,吻(ふん)は細く突出する。口は深く裂けている。背びれは胸びれの先端より後方から始まる。体は灰褐色で,斑紋はないが,多数の小隆起線が縦または斜めに走っている。スソウミヘビOphichthus urolophusは南日本に分布し,熊野灘の水深150m前後の海底から多量に漁獲される。吻は短い。全長50cmに達する。背びれの起始部と胸びれとの相対的位置はウミヘビ類の主要な分類形質の一つであるが,本種では個体変異が著しい。モンガラドオシMicrodonophis eraboは外房から沖縄にわたって分布。胸びれが小さい。体は黄褐色で,まるい大きな暗褐色斑紋が縦に2列に並び,ときにはそれらの間に同色の小斑紋が不規則に散在する。頭部の斑紋は小さくて密に散在する。全長70cmを超える。
ボウウミヘビXyrias revulsusは相模湾以南に分布。熊野灘では機船底引網でかなり漁獲される。体は淡褐色で,腹側は淡色。背面から体側にかけ,ときには腹面にも不規則な褐色斑点が密に分布している。斑点の大きさ,配置には個体変異が著しい。全長1mに達する。
執筆者:日比谷 京
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ウミヘビ
sea snake
海中生活に適応して進化を遂げたヘビの一群。コブラ科ウミヘビ亜科およびエラウミヘビ亜科に属するヘビの総称。尾が著しく側扁して鰭状をなし,鼻孔が吻の背側にあるなど,水中生活に適応した形態的変化がみられる。毒をもつ。大きさはほとんどが 0.8~1.3mである。大多数の種は,卵胎生で,インド洋西部から西太平洋にかけての熱帯地方の浅い海域に分布し,セグロウミヘビだけが外洋性である。化石種は知られておらず,分類の難しいグループである。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ウミヘビ(爬虫類)【ウミヘビ】
一生を海で過ごす毒ヘビの総称。コブラ科のウミヘビ亜科とエラブウミヘビ亜科とに分かれる。コブラ類から分化したと考えられ,〈海のコブラ〉と呼ばれるほど特徴が似る。体の断面は楕円形,尾は側扁して遊泳に適する。15属53種ほどが太平洋,インド洋の熱帯,亜熱帯に広く分布し,1種を除き,すべて海生。日本近海にはエラブウミヘビ,セグロウミヘビなどがすむ。すべてが有毒で溝牙(こうが)をもち,その神経毒は強い。大半が卵胎生。
ウミヘビ(魚類)【ウミヘビ】
ウミヘビ科の魚の総称。体は細長く,尾鰭が萎縮(いしゅく)または退化して一見ヘビに似る。日本には30種ほど。代表的なダイナンウミヘビは,ウミヘビ類中最大で全長1.6mにも及ぶ。吻(ふん)は長く,強大な犬歯をもつ。本州中部以南に分布。
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
ウミヘビ
ウミヘビは太平洋、南アメリカ、インド洋の熱帯域で見られ、その毒は陸上の毒ヘビ、コブラを上回るほどの猛毒とも言われる。しかしウミヘビの口は小さく、毒牙も発達していないので、ダイバーが危害を受けることは少ない。しかし猛毒を持っていることは確かなので、 ダイバーはウミヘビに対してむやみに攻撃的な行動をとるべきではなく、万一かまれたときは、至急医師の手当を受ける必要がある。
出典 ダイビング情報ポータルサイト『ダイブネット』ダイビング用語集について 情報