エキスパートシステム(読み)えきすぱーとしすてむ(英語表記)expert system

翻訳|expert system

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エキスパートシステム」の意味・わかりやすい解説

エキスパートシステム
expert system

専門家が有する知識を知識プログラム言語によって表現し,診断や設計といったタスクで利用できるようにすることで,専門的な問題解決サービスを提供するシステム。専門家システムともいう。アメリカ合衆国スタンフォード大学のエドワード・A.ファイゲンバウムが提唱した知識工学を具現したものとして位置づけられ,1965年に同大学に設立されたヒューリスティック・プログラミング・プロジェクト HPPなどで研究開発が進んだ。有機化合物の化学構造式を推定する DENDRALが最初エキスパートシステムとされ,医療診断エキスパートシステムの MYCIN(1974完成)なども知られる。1980年頃にはエキスパートシステムの商用化が盛んに試みられ,日本の第5世代コンピュータプロジェクトにも影響を与えた。エキスパートシステムは,「このような場合にはこのようにせよ」というルール形式で書かれた知識を集積した知識ベースと,与えられた問題を知識ベースの内容に基づいて解決する推論エンジンから構成される。知識ベースの内容は自然言語の表現に近かったが,専門家がその内容を直接記述し管理するのは困難であったので,専門家にインタビューし,そこで得た膨大な情報を集積する人手が不可欠であった。そのため,エキスパートシステムのアプローチは知識の獲得と管理に隘路があるとみなされ,限定的にしか成功しなかった。これにより人工知能は冬の時代を迎えたが,背景にある知識工学という考え方オントロジーや知識マネジメントに引き継がれた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エキスパートシステム」の意味・わかりやすい解説

エキスパートシステム
えきすぱーとしすてむ
expert system

人工知能研究の応用の一つであり、エキスパート(専門家)の知識をコンピュータに取り入れ、問題解決を図るシステムをいう。知識を表現して利用するシステムであることから、知識ベースシステムともいわれる。ここでいう「知識」とは情報を体系化したものであり、たとえば「~ならば、~になる」などの命題の集まりからなる。人間の知能全般にかかわるわけではなく、特定の対象領域を定めて、その範囲内で問題解決などを行わせるシステムを目ざすところから、エキスパートシステムとよばれる。1980年代はとくに盛んに研究開発されたが、人間の知識をコンピュータ上に表現することのむずかしさ、また、その知識を利用する推論のむずかしさなどから、人間の専門家の水準に至ることは困難で、現在では表面的には研究開発は下火になっている。しかし、さまざまなスケジューリング工場制御システムなどに埋め込まれる形で着実な成果をあげているものも多い。

[田村浩一郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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