日本大百科全書(ニッポニカ) 「エルツ山脈」の意味・わかりやすい解説
エルツ山脈
えるつさんみゃく
Erzgebirge
ドイツ東部とチェコ北西部の境に、東北東―西南西の方向に延びる山脈。東にはエルプ砂岩山地、西にはエルスター山地がある。長さ約130キロメートル、幅30~35キロメートル。最高峰は、ドイツ側ではフィヒテル山(1214メートル)、チェコ側ではクリーノベツ山(1244メートル)。山脈の東部と中部は主として片麻(へんま)岩からなり、西部は主として雲母(うんも)片岩、千枚岩、花崗(かこう)岩からなる。地形的には傾動地塊であって、南のチェコ側は急傾斜をなすが、北のドイツ側は緩傾斜をなし、ザクセンの低地にしだいに移行していく。ドイツ側の浅い谷沿いには、中世に多くの林地開拓村Waldhufendorfが成立し、その特徴ある形態が現在もよく残っている。「エルツ」とは鉱石の意であり、12世紀にフライベルクで銀鉱が発見されてからこうよばれるようになった。それ以来、銀や鉛などの鉱石採掘が盛んになり、15世紀には最盛期を迎えて、多くの鉱山町が発展したが、17世紀には衰退した。第二次世界大戦後、西部でウラン鉱が採掘されたが、現在ではほとんど枯渇した。東部でわずかながら亜鉛が採掘されるにすぎない。17世紀の鉱山衰退の後、それにかわるものとして、森林資源を利用した木材・木製品工業とくに玩具(がんぐ)製造業や、刺しゅう、金属製品など、さまざまの工業が発展。現在では保養地としてにぎわっているところも多い。
[浮田典良]