日本大百科全書(ニッポニカ) 「エレクテイオン」の意味・わかりやすい解説
エレクテイオン
えれくていおん
Erekhtheion
アテネのアクロポリスの北側に建つ古代ギリシアのイオニア式神殿。アテネの伝説上の王エレクテウスと女神アテネおよび海神ポセイドンの3神を祀(まつ)る、ギリシアでは異例の複合建築。建築家カリクラテスの設計で、紀元前421年に着工し、前407年ごろに完成した。床面の高さを異にするその複雑なプランは、東西に25.5メートル、南北に21.5メートル、東側に正面6柱のイオニア式の柱をもつ玄関廊を配し、その奥にアテネの神殿がある。建築の中央部を構成する西・北側は東・南側より床面が3メートルも低くなり、エレクテウスとポセイドンを祀る内室がある。この北側には正面4柱、側面各1柱のイオニア式の柱を配し、エレフシスの青大理石に刻まれた美しい浮彫りで飾ったフリーズで囲んだ大きな玄関廊が張り出している。また南側には東側と同じ高さに正面4体、側面各1体、計6体の女像柱、いわゆるカリアティードで有名な「コレーの壇」が突き出ている。この「コレーの壇」は北の玄関廊のほぼ4分の1の大きさにすぎないが、イオニアのチュニックを着た6体の女像柱はほぼ等身大である。左から2体目の像は1801年エルギンがイギリスに持ち去り、そのコピーが置かれていたが、現在は他の5体も毀損(きそん)が激しくなったため取り外されてアクロポリス美術館に陳列されている。この3柱を祀るイオニア式の複雑な建築は、その細部の優美な装飾により、パルテノンと並んでギリシア古典期の最高の水準を示すものとされる。
[前田正明]