オーカッサンとニコレット(その他表記)Aucassin et Nicolette

改訂新版 世界大百科事典 の解説

オーカッサンとニコレット
Aucassin et Nicolette

13世紀フランスの純愛小説。創作年および作者不詳。イスラム教徒の女奴隷の少女ニコレットと南仏ボーケール領主の息子オーカッサンが共に育つ間に相思相愛の仲になるが,身分の違いから引き離され数々の遍歴苦難の後にめぐりあってやっと結ばれる物語。韻文散文が交互に配置された〈歌物語chantefable〉という形式で書かれており,韻文の部分には音符も付されている。歌物語と呼ばれる作品で現存するものは本編のみである。同時代の武勲詩に対するパロディ的態度も見られ,北アフリカ(カルタゴ)やイスラム教徒の風俗など異国趣味も示すユニークな作品である。この作品を伝える写本はただ一つしかなく,パリ国立図書館蔵となっている。ウォルター・ペーターがその著《ルネサンス》(1873)の中でルネサンスの先駆的作品として,同じ13世紀フランスの作品《アミアミル》と共にこの作品を取り上げて以来,広く一般の関心を集めたため,日本にも早くから紹介され(1894年《文学界》第16号に平田禿木が《オーカシンの君》の読後感を述べているのが最初),邦訳も数種出ている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

オーカッサンとニコレット
おーかっさんとにこれっと
Aucassin et Nicolette

フランス中世の歌物語。作者未詳。年代は1200年前後。韻文と散文との交互構成をもち、韻文でさわりを歌い、散文で筋を進展させる。筋は領主の若君(わかぎみ)と人買いの手から買った奴隷の美少女(実はある領主の姫君)との牧歌的恋愛譚(たん)。南フランス、ボーケールの城主の若君オーカッサンは奴隷女のニコレットを愛するが、父親の反対で結婚できない。それでもあきらめようとしないので、領主はオーカッサンを地下牢(ろう)に、ニコレットを塔の中に監禁する。2人は別々に抜け出して森の中に逃げ、さらに船で異国に逃亡しようとするが、暴風にあい、船は難破し、2人は別れ別れとなる。ニコレットは生国に帰って父娘対面をするが、旅の楽人(がくじん)に身を扮(ふん)してオーカッサンを捜し、ボーケールの城でめぐりあい、ついに結婚する。早春の朝のような、すがすがしい文体で書かれた宝石のような小品で、人間性の尊重と現世的快楽の思想があふれた前ルネサンス的匂(にお)いのする傑作である。

佐藤輝夫

『川本茂雄訳『オーカッサンとニコレット』(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

オーカッサンとニコレット
Aucassin et Nicolette

13世紀前半のフランスの作者未詳の物語。「歌物語」 chantefableで現存する唯一の作品。散文と韻文の小節を交互に置いた構成で,散文の部分はほとんど独白と対話から成り,おそらく1人の演技者が歌いかつ身ぶり,声色を使い分ける演劇的構成が特徴。物語はアラブまたはビザンチン起源で,伯爵の息子オーカッサンと女奴隷ニコレットの牧歌的な愛を扱う。愛し合う2人の結婚に伯爵夫妻は反対する。ニコレットは城から逃げ出し,オーカッサンはあとを追う。別離,邂逅が繰返され,多くの事件に出会うが,2人の勇気と巧妙さはそれを乗越え,反対していた両親の死により最後に結婚する。

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百科事典マイペディア の解説

オーカッサンとニコレット

13世紀初頭のフランスの作者未詳の冒険物語。《Aucassin et Nicolette》。ボーケール伯爵の子オーカッサンと,とらわれのサラセンの乙女ニコレットの恋を散文と韻文を交互に配して描く。自然,素朴,上品で機知と諧謔(かいぎゃく)を巧みにまじえている。

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