気体物質を対象とし,その中に含まれる成分を定性的あるいは定量的に検知する分析法。原理的には対象成分の化学的性質を利用する方法と物理的性質を利用する方法とがある。
ガスの定性分析とは,試料ガスに含まれている成分が何であるか,あるいは特定の成分が含まれているかどうかを決めることである。簡単な方法としては色や臭気から識別する方法もあるが信頼性が低い。ガス密度の測定,特定の成分とのみ反応して呈色する物質の利用,各種ガスセンサーの利用,ガスクロマトグラフィーにおける保持時間の測定,各種スペクトル(たとえば赤外,紫外あるいは可視スペクトル)から定性する方法などが,それぞれ単独に,あるいは組み合わせて用いられる。ガスクロマトグラフで分離した成分を直接赤外分光光度計や質量分析計に導いてスペクトルを得て定性する方法は,とくに信頼性が高い。
ガスの定量分析は,試料ガスに含まれている目的成分量を求めることで,次のような種々の方法がある。
(1)溶液吸収法 特定のガスを選択的に吸収する試薬溶液(たとえば水酸化ナトリウム水溶液は二酸化炭素を吸収する)を何種類か用意し,順次試料ガスと接触させてガス体積の減少量を測定し,各成分の体積%を知る方法。これにはヘンペル法,オルザット法などがある。
(2)検知管法 細長いガラス管に対象成分と選択的に反応,呈色する試薬(たとえば硫化水素H2S用には微粒シリカゲルに硝酸鉛を担持させたもの)をつめておき,一定体積の試料を吸引導入したときの呈色(H2Sの場合,褐色)した長さから濃度を求める。
(3)滴定法 吸収液に捕集したのち滴定によって目的成分量を求める方法。たとえばアンモニアは,希ホウ酸水溶液に吸収後,希硫酸で中和滴定することにより定量できる。
(4)吸光光度法 溶液中での選択的な発色反応を利用して定量する方法。有害ガスを対象にした例が多数ある。
(5)化学発光法 たとえば一酸化窒素NOはオゾンO3と反応する際発光する。そこで試料ガスをO3と混合し,発光強度を測定すればNO濃度が求められる。
(6)電気化学的方法 たとえば二酸化窒素NO2は2NO2+H2O─→HNO2+HNO3,HNO2+H2O2─→HNO3+H2Oの反応で生じた硝酸HNO3を硝酸イオン選択性電極で検出し,NO2濃度を決定できる。このほかに,対象成分を電解質中に吸収したのち電解を行い,電解電流や電圧の測定を行って定量する方法など各種ある。
(7)ガスセンサーの利用 古くから炭鉱のメタンガス検出用に使われている接触燃焼式ガスセンサーは,白金線上に担持した触媒上で可燃性ガスが接触燃焼したときの温度上昇を白金線の電気抵抗の増加として検出する。ほかに,半導体等の電気伝導度変化などから酸素,水(湿度),アルコールなどの濃度測定を行えるセンサーなど種々ある。
(8)紫外,可視あるいは赤外線吸収法 対象成分に特有な吸収波長の光を使って吸光度を測定する方法で,NO,NO2,CO,CO2そのほかの自動計測などで利用されている。
(9)クロマトグラフィー ガスクロマトグラフィー,ガスクロマトグラフ-質量分析法は,ほとんどすべてのガス成分を対象として分析することができる。
(10)その他 屈折率や熱伝導度を測定する方法,質量分析計による方法などがある。
以上のものは(1)(3)(10)を除き,ppmあるいはそれ以下の濃度まで定量できる例が多い。
執筆者:保母 敏行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
気体状態の物質に対して行う化学分析の総称。気体の色、におい、反応性、燃焼性、吸着性、吸収性その他の種々の化学的、物理的性質を利用して気体の定性、定量を行う方法があり、一般に次のような方法が知られている。
〔1〕吸収法 (1)混合気体試料を適当な気体吸収剤で処理して、ある成分だけを選択的に吸収させ容積の吸収減量から成分含有量を知る吸収容積法と、(2)あらかじめ重量を測定しておいた吸収剤に試料気体を吸収させ、その増量から求める吸収重量法とがある。たとえば、水蒸気を含む気体を過塩素酸マグネシウムなどの乾燥剤に通したり、二酸化炭素を含む気体をソーダアスベストのような吸収剤に通して、その重量増加分として水分と二酸化炭素を定量する方法がこれにあたる。
〔2〕燃焼法 可燃性試料に酸素その他を加えて燃焼反応をおこさせ、その際おこる体積変化などから定量する方法である。水素、酸素、炭化水素、窒素酸化物の定量などに広く用いられている。
〔3〕滴定法、比色法 気体試料の一定量を吸収液に通じ、吸収液を滴定し、その滴定量から試料成分の含有量を求めるのが滴定法、吸収液による発色を比色定量するのが比色法である。
〔4〕試験紙法、検知管法 比色法の変形で、試験紙法は発色試薬をしみ込ませた試験紙の変色を、検知管法は発色試薬を吸着させたシリカゲルなどを細いガラス管に詰め、試料気体の通過によるその変色を見る方法で、両者とも微量成分の検出や半定量が簡便迅速に行える点に特長がある。
〔5〕ガスクロマトグラフィー 気体中と、それに接している固体または液体中との間における物質の吸着または分配力を利用して、物質の分離や分析を行う方法。
〔6〕物理的諸方法 密度、粘度、熱伝導度、反応熱、電気的・磁気的・光学的性質などを測定して定量する方法。
以上のほか、化学反応に伴って発生するガスを目盛り管に集めてその体積を測定するガス容量分析や、検圧計法をも含めて一般にガス分析とよぶこともある。
[高田健夫]
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