原子核の放射性崩壊の一種で,原子核がK電子などの軌道電子を吸収し,よりエネルギー的に安定な核に変化する過程をいう。弱い相互作用による陽子pが電子e⁻を吸収して中性子nに変わり,同時に中性微子νeが放出される過程(p+e⁻─→n+νe)で,広い意味でのβ崩壊に含まれる。電子捕獲では質量数は変化せず,捕獲する電子の負電荷のため原子番号はZからZ-1となり,β⁺崩壊したのと同じ結果になる。実際,β⁺崩壊と共存していることが多いが,β⁺崩壊がエネルギーのつり合いから不可能な場合(陽電子の放出には負のエネルギー状態にある電子を正のエネルギー状態へもち上げねばならないので,少なくとも電子質量の2倍に相当する崩壊エネルギーが必要である)には電子捕獲しか起こらない。歴史的には1935年に湯川秀樹と坂田昌一(1911-70)によってその存在が理論的に予言され,38年にアメリカのアルバレズLuis Walter Alvarez(1911-88)が初めて実験的に検証した。放出される粒子が中性微子だけであるので,その検出には電子が捕獲され,あいた空孔へ再び電子が上の軌道から落ちるときに放出される特性X線かオージェ電子の観測によらざるをえない。また,捕獲に伴って核の電荷が急激に変化するので,弱い制動放射が観測されることもある。電子の軌道によってK電子捕獲,L電子捕獲などに分類されるが,捕獲の確率が原子核の位置での電子密度に比例するので強度はK電子捕獲がもっとも強く,L殻のうち,s軌道であるLI捕獲はその1割程度であり,LⅡ,LⅢからの寄与はさらに少なくなる。LI/K比は理論的に計算されており,実験と比較される。電子捕獲は,核位置での電子密度が高いという同じ理由で,重い放射性同位体でより重要性を増す。電子捕獲とβ⁺崩壊が競合している場合,その分岐比は,それぞれの終状態の密度の違いのためにエネルギー依存性をもち,崩壊エネルギーが高いほどK/β⁺比は小さくなる。
執筆者:山崎 敏光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
【Ⅰ】原子核(原子番号Z,質量数A)のβ崩壊の一つの型.陽子pが原子軌道から核の内部に浸み込んでいる電子を捕獲し,中性子nと中性微子νへ
p + e- → n + ν
の遷移を行い,質量とエネルギーの同等性関係を用いた,
Eν = [M(Z,A) - M(Z - 1,A)]c2
のエネルギーのνを放出する.この崩壊様式は β+ 崩壊とよく似ており,エネルギーの条件から後者が起こるときは必ず起こりうる.湯川-坂田(1935年)がその可能性を指摘した.【Ⅱ】熱電子捕獲
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… β崩壊は,電子(e-)または陽電子(e+)と中性微子(νe,e)を放出することによってZが1変化する過程(A,Z)→(A,Z+1)+e-+e,または(A,Z)→(A,Z-1)+e++νeで,おおまかには前に述べたβ安定線上にない原子核は上のどちらかの崩壊に対して不安定である。その変形として原子を構成している電子が原子核によって捕獲される電子捕獲過程e-+(A,Z)→(A,Z-1)+νeも観測されている。β崩壊は元素の形成過程で重要な役割を果たしているほか,その崩壊率は関与する原子核の性質を強く反映しているので,核構造のたいせつな情報源となっている。…
…電子を放出するβ-崩壊ではZ→Z+1,また陽電子を放出するβ+崩壊ではZ→Z-1となる。広い意味では陽電子が放出される代わりに軌道電子を吸収し中性微子を出す電子捕獲もβ崩壊に含める。歴史的には,β線の連続エネルギースペクトルを説明するために,W.パウリによって中性微子の存在の仮定が立てられたという事実がある。…
※「電子捕獲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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