家庭医学館 「がんの特徴」の解説
がんのとくちょう【がんの特徴】
●初期の症状がはっきりしない
病気がおこると、ふつうは発熱、痛み、息切れ、倦怠感(けんたいかん)(だるさ)、むくみなどの症状が現われてきます。
ところががんは、発生しても初期のうちはまったく症状が現われないことがほとんどです。がんが進行しても、まだ症状が現われないことも多く、病気らしい明らかな症状が現われたときには、すでに手遅れということもよくあります。
●がん細胞は無制限に増殖(ぞうしょく)する
わたしたちのからだを構成している細胞では、古くなったものは死んではがれ、新しい細胞と入れ替わるという、新陳代謝(しんちんたいしゃ)が行なわれています。
新しくつくられた細胞は、死んだ細胞のコピーともいえるもので、数、形、性質がもとの細胞とまったく同じように再生していきます。皮膚がけがをしても、もとのようにきれいになるのもこの細胞の再生のためです。
この再生の過程がおかしくなり、正常な細胞が突然変異をおこし、もとの細胞とは数、形、性質がまったく異なった細胞がとめどなく発生してきたのが、がんです。正常な細胞は、もとの数だけの細胞が再生されると、それ以上増殖させない機能がはたらくのですが、がん細胞はこの機能がはたらかず、無制限に増殖し続けます。
●がんは遺伝子(いでんし)の病気である
最近の分子生物学の進歩によって、正常な細胞をがん細胞に変化させるのは、細胞の中にあるがん遺伝子の活性化とがん抑制遺伝子の欠損(けっそん)であることがわかってきました。この遺伝子を傷つけてがん細胞を発生させる引き金になる外部の要因としては、いろいろな発がん物質、ウイルス、放射線、遺伝病などがあげられています。そして1個のがん細胞は10年、20年と長い期間をかけてがんになるのです。
●がん細胞は周囲の細胞に侵入する
血液が運んできた栄養素や酸素の多くをがん細胞が横取りしてしまい、そのため周囲の正常な細胞は弱り、破壊されてしまいます。粘膜(ねんまく)にできたがんは、成長するにつれて粘膜の下の組織をおかし、さらに筋肉層(きんにくそう)まで入り込んで、正常な細胞を破壊しながら大きくなっていきます(浸潤(しんじゅん))。
●がん細胞は転移(てんい)する
がんがある程度以上に発育すると、がん細胞の一部がそこからはがれ、血液やリンパ液の流れにのっていろいろな臓器に飛び火し、そこに定着します。
この現象を転移といいますが、転移した先でまた無制限に増殖し、周囲の細胞を弱らせていきます。
また、がん細胞は、近くの組織にもぐり込んで広がっていくことがあります。胃壁や肺の胸膜(きょうまく)を突き抜けて、腹腔(ふくくう)や胸腔(きょうくう)、臓器のすき間などに飛び散り、がん性腹膜炎(ふくまくえん)やがん性胸膜炎(きょうまくえん)をおこしたりします。
そして、がん細胞の出すがん毒素が臓器や神経をいため、全身の細胞が弱ってしまうこともあります。この状態をがん悪液質(あくえきしつ)といい、ちょうど末期がんの状態に相当します。