がんの骨転移(読み)がんのこつてんい(その他表記)Bone metastasis of cancer

六訂版 家庭医学大全科 「がんの骨転移」の解説

がんの骨転移
がんのこつてんい
Bone metastasis of cancer
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな状態か

 骨の内部には血管の豊富な骨髄(こつずい)があり、血液細胞を作っています。血管に富む構造のために、ここに体のほかの部分のがん、たとえば肺がん乳がん前立腺がんなどが血管を通って移動してきて、がん病巣を形成します。骨で増殖しますが骨にもともと発生した(原発性)ものではなく、ほかの組織のがん腫からがん細胞が移動してきたもので、これを骨転移といいます。

 骨は、いろいろながん腫、たとえば肺がん肝臓がん乳がん前立腺がん胃がんなどが転移しやすく、このような骨の腫瘍病変を続発性骨腫瘍(ぞくはつせいこつしゅよう)と呼び、骨から発生した原発性骨腫瘍(げんぱつせいこつしゅよう)区別します。

 もちろん、まれではありますが、ほかの骨や軟部にできた肉腫が転移して、ほかの骨に病巣を作ったものも続発性骨腫瘍として分類されます。骨の内部の血管構造が悪性腫瘍の転移形成に好ましい条件をそろえているため、転移が起こりやすいと考えられています。

 骨に発生した腫瘍のなかで続発性骨腫瘍の占める割合は高く、約3分の1が続発性骨腫瘍です。がん腫がすべて同じように骨に転移するのではなく、骨転移しやすいがん腫があります。肺がんが最も多く、乳がん前立腺がんがこれにつぎ、腎がん肝臓がん、子宮がんなどが多いことが知られています。

転移病巣の成長について

 骨の内部に転移して腫瘤を作っていく転移病巣は、硬い骨の構造のなかでどのように大きくなっていくのでしょうか。大きくなるためには周囲の骨を溶かすか、あるいは壊さなくてはなりません。正常な骨では、硬い骨基質(こつきしつ)(主にコラーゲンリン酸カルシウム)は骨芽(こつが)細胞により作られ、余計な骨基質は破骨(はこつ)細胞によって壊されています。この作ることと壊すことは休むことなく進められ、一定のバランスが骨組織構造を保っています。

 骨に転移した悪性腫瘍は、正常な骨のなかで休むことなく営まれている骨の代謝にかかわる破骨細胞を利用し、これを刺激することにより、周囲の骨を溶かして自分の増殖するスペースを広げています。正常な骨の細胞が、ほかからきた悪玉の腫瘍細胞が領土を広げる手助けをしてしまいます。

 一方、がん腫のなかには骨芽細胞を刺激するものもあります。転移部に一致して骨形成がみられ、骨硬化像が確認されるようになります。そのような硬い骨は柔軟性が失われ、骨折を起こしやすくなります。

症状の現れ方

 痛みが主体です。脊椎(せきつい)に転移した場合には、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアに似た神経の刺激症状として現れることもあります。原発のがん病巣がはっきりしている場合には、がんの骨転移を疑ってX線や核医学検査を行って診断することができます。

 時々、原発のがん病巣が検査でも見つからないくらい小さいのに、骨転移病巣が大きくなって見つかることがあります。この場合は原発性骨腫瘍との区別が難しくなります。がんが血管のなかに入り込む状態なので、病気の進みが速いために骨の破壊が急速に起こり、少しのことで骨折が生じる病的骨折で初めて気がつくこともあります。

検査と診断

 X線検査では、骨が溶ける溶骨像と骨が形成される硬化像がみられますが、原発のがん腫の違いによりX線像に特徴がみられます。肺がん胃がんなどは溶骨像を特徴とし、前立腺がんは硬化像を特徴とします。乳がんでは溶骨像と硬化像が混在します。

 骨原発の肉腫との区別には血液検査が有効で、原発のがん腫の特異的抗原、いわゆる腫瘍マーカーの上昇が、がん腫の骨転移診断の手がかりになります。原発のがん腫病巣がはっきりしない場合には、腫瘤を一部採取(生検術)して、組織検査を行う必要があります。

治療の方法

 抗がん薬やホルモン療法など、原発のがん腫に有効な治療が行われます。病的骨折のある場合や、いつ病的骨折が起きても不思議ではない状態では、全身状態を考慮したうえで、骨接合術(こつせつごうじゅつ)や人工材料による置換術(ちかんじゅつ)を行います(図49)。

 骨転移は多発することが多いのですが、もし1個だけで、かつ原発のがん腫がしっかり治療されていて、ほかの内臓、たとえば肺や肝臓、脳、腎臓などに転移病巣が見つからない場合には、骨転移病巣を骨腫瘍と同じように切除します。

 いずれにしても全身疾患として位置づけられ、全身状態の把握が大切です。手術は、患者さんにとって何が最善かを十分検討したのち、選択すべきです。

病気に気づいたらどうする

 ただちに骨軟部腫瘍の専門医に相談しましょう。また、すでにがんの病気で治療を行っている場合には、まず主治医に相談するのがよいでしょう。

岡田 恭司


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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