日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロート」の意味・わかりやすい解説
クロート
くろーと
Harold W. Kroto
(1939―2016)
イギリスの化学者。ユダヤ系ドイツ人の父がナチスの迫害を避けるためにイギリスに渡り、ケンブリッジシャー州で生まれる。1961年シェフィールド大学を卒業、有機化学に興味をもっていたが分光学を知り、フリーラジカルの分光学的解析をテーマに1964年同大学で博士号を取得。2年間カナダ・国立研究機構で博士研究員を務めた後、1年間ニュー・ジャージーのベル研究所でラマン分光による液相の反応について研究するとともに量子化学の研究も行った。1967年サセックス大学に移りマイクロ波分光法を用いた研究を行う。炭素に富む巨大恒星を研究中、その大気中にスペクトル線を発見し、それが炭素と窒素のみからなる長い鎖状分子の一種であることがわかった。同様の分子が宇宙空間の雲状のガスからも見つかり、このような新しい炭素化合物が恒星の大気を形成しているのではないかと考えて、長い鎖状炭素分子の形成について研究を始めた。1985年同大学教授に就任。
この年に長い鎖状炭素分子を合成するため、クラスター化学のR・スモーリー、分光学者のR・カールとともに、炭素にレーザーを照射して蒸発させた後に凝縮させる実験を行った。その結果、炭素原子60個からなるクラスターができたが、非常に安定した分子であることからその構造が鎖状ではなく、サッカーボールのような球状であると推測し、これをフラーレンと名づけネイチャー誌に発表した。この発見により、スモーリー、カールとともに1996年のノーベル化学賞を受賞。フラーレンは、電子材料としての利用をはじめとして多様な分野での応用が期待されている。
[馬場錬成 2018年7月20日]