記銘力の極端な低下を中心とした独特の精神状態で、直前のことも忘れるほどの記銘障害、発病以前のことまで忘れる、いわゆる逆行健忘がみられるが、古い記憶は比較的保たれる。時間や方角など自分を取り巻く環境を正しく把握できなくなる失見当、およびいいかげんな作り話(作話症)も目だつ。アルコール依存症の経過中に、意識混濁と身体の震えをおこす発作(振戦譫妄(せんもう))のあとにみられることが多い。そのほか、頭部外傷、一酸化炭素中毒のあとや、脳軟化、老年痴呆(ちほう)の症状としても現れる。1887年、ロシアの精神病学者コルサコフにより記載された。
この症状は、脳の一定部位、たとえばホルモンの中枢である視床下部、記憶に関係の深いアンモン角(海馬)などに変化があるときにおこりやすい。大脳皮質の広範な変化でもおこることがある。アルコール依存症の場合は肝障害、多発神経炎などを伴うことが多い。これにはビタミン不足など栄養の不足も関係がある。治療としては、少量の精神安定剤の投与や全身状態を改善するための対症療法が行われる。アルコール依存によるコルサコフ症候群は、一時軽快しても再発しやすい。飲酒をやめなければ、予後は不良である。頭部外傷、一酸化炭素中毒のあとにくるものは、しだいに軽快する。また、脳軟化や老年痴呆にみられるものは、一時軽快することもあるが、予後は不良で、治癒は困難である。
[石井 毅]
健忘症候群とほぼ同義。脳の器質病変により記憶障害と作話を主病像とする場合をいう。主症状は(1)高度の記銘力障害(出来事を覚え込めない),(2)失見当識(時,場所,人物の認識不能),(3)逆向健忘(過去に遡及する忘却),(4)作話(記憶欠損をうめるための作り話)である。一見した態度は整っており,意識障害や痴呆はない。精神病理学者コルサコフSergei S.Korsakov(1854-1900)がモスクワでアルコール中毒や産褥(さんじよく)熱などの栄養障害で多発神経炎を伴う本症候群を報告した(1889)。頭部外傷,脳腫瘍,脳血管障害,脳炎,一酸化炭素中毒などでもみられる。病変部位は間脳の乳頭体および両側側頭葉の海馬が重要である。精神病理学的には思考・人格・心構え・時空間構造の秩序などの障害が論じられている。
執筆者:浅井 昌弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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