ローマ共和政末期の政治家,歴史家。イタリア中部のアミテルヌムの騎士身分出身。前52年,護民官職にあり,T.A.ミロらによるクロディウス殺害に際して,ミロとその弁護者キケロに反対の立場に立った。一時元老院から追放されたが,前49年からの内戦でカエサル派に加わり,前46年,アフリカ戦線での勝利に寄与して,ヌミディア王国併合後の新属州(アフリカ・ノウァ)の初代総督に就任した。離任後,不当搾取罪に問われ,からくも免れたが,まもなくその政治上の理想であったカエサルの暗殺(前44)に遭って政界を引退。以後,歴史叙述に専念し,旗幟(きし)鮮明な筆法と簡潔な文体によってタキトゥスらに深い影響を与えた。
スラの独裁が生み出した暴力的社会状況の象徴ともいうべきカティリナの陰謀事件(前62)を描いた《カティリナ》以来,サルスティウスの主題は一貫して崩壊の度を加えるローマ社会の同時代史であった。第2作《ユグルタ戦記》は,前118年からのヌミディア王位継承紛争をきっかけに暴露されたローマ名門貴族(ノビレス)の腐敗と反動政治に対する平民派の抵抗開始を描いて,彼にとっての〈現代史〉の出発点を分析したものであった。また断片しか残っていない最大の著作《歴史》は,スラの死(前78)後,前67年までを扱って《カティリナ》《ユグルタ戦記》両時期の間の架橋を目ざすものであった。これらの作品において危機の原因として名指されるものが〈貪欲〉〈野心〉などの悪徳である限りにおいて,彼の時代批判は一見通俗道徳の立場からの超歴史的批判とも見える。しかし〈悪徳〉の人カティリナやユグルタが,ローマ政界の頂点に〈陰謀〉の同調者を見いだしていく過程を克明に追うことによって,彼は,この〈悪徳〉が人間一般の通弊というよりむしろ地中海に君臨する名門貴族社会階層に特徴的なものであるとの認識を示しているのである。そして,しばしば問題とされる彼の〈党派性〉(カエサル的平民派のイデオローグとしての)は,まさにその党派性のゆえに〈不偏不党〉の歴史書からはうかがい知れない歴史の側面に光をあてているというべきであろう。
執筆者:栗田 伸子
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古代ローマの歴史家。イタリア半島中部のサビニ人の都市アミテルヌム出身。初め元老院議員としての経歴を歩み、カエサルに心服。カエサルとポンペイウスとの内乱では前者に従い、のち紀元前46~前45年にはアフリカ・ノワ州の総督を務めた。前44年にカエサルが暗殺されると政界を退き、歴史著述に専念した。作品としては、前60年代の政治事件を扱った『カティリナの陰謀』De Catilinae Coniuratione、前111~前105年のヌミディア王ユグルタとローマとの戦争を扱った『ユグルタ戦記』Bellum Jugurthinumが現存。前78~前67年のローマ史を扱った『歴史』Historiaeは大部分が散逸した。ほかに『キケロ弾劾演説』Invectiva in Ciceronemと『カエサル宛(あて)書簡』Epistulae ad Caesarem2編とが現存するが、いずれも真作か偽作かが争われている。彼はすでに古代から大歴史家としての定評がある。
[吉村忠典]
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前86~前35
古代ローマの歴史家。カエサル派の政治家として諸官職を歴任後,著述生活に入る。主著『歴史』は散佚,『カティリナ戦記』『ユグルタ戦争』が残る。トゥキュディデスを模し,文体は簡潔で力強い。
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…カエサルの《ガリア戦記》と《内乱記》は,覚書の形式による自己の政治活動の記録であり,宣伝と弁明を兼ねている。サルスティウスの《ユグルタ戦記》と《カティリナの陰謀》および《歴史》は,ローマ人の道徳的堕落にローマ国家崩壊の原因を求める,きわめてローマ的な史観に貫かれている。ネポスの《伝記集》は,ギリシア・ローマ対比列伝の形式による偉人伝であるが,これも歴史書の分野に入る。…
…ポリュビオスやアッピアノスは,前146年炎上するカルタゴを前にして,将軍小スキピオが〈ローマもいつの日か同じ運命に遭わん〉と心中憂えたことを伝えているが,これは外敵の制圧は内での退廃を招くという当時ローマ人が抱いていた危惧を反映しており,このような没落の観念はポリュビオスの政体循環論に影響を与えた。共和政末期の混乱は未来に対する悲観論に拍車をかけ,サルスティウスは〈すべて生まれしものは死す。成長せしものは老いる〉と述べ,ホラティウスは内乱と道徳の乱れに国家の終末を予見した。…
※「サルスティウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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