改訂新版 世界大百科事典 「ツマベニチョウ」の意味・わかりやすい解説
ツマベニチョウ
Hebomoia glaucippe
鱗翅目シロチョウ科の昆虫。東洋熱帯に広く分布する大型チョウで,シロチョウ科では世界最大。開張は9.5~10.5cm。南西諸島のほか,薩摩・大隅両半島の南端まで分布し,九州が分布の北限。雄は雌と少し斑紋が異なる。雌は雄より前翅の橙赤紋が小さく,暗褐色の鱗粉や斑点が前・後翅ともよく発達する。和名はこの赤紋に由来する。大隅半島ではサタチョウ(佐多蝶)と呼んでいる。
敏速に飛び,花によく集まる。早朝から活動を始め,午後はわりあい早く活動をやめて木陰に静止する。雌は食樹を求めて広範囲を飛び,雄は一定の区域を巡回し,食樹に強く誘引されるが,これは羽化直後の雌をさがすための行動と思われる。食樹は日本ではギョボク(フウチョウソウ科)のみである。飼育下ではカラシナ,キャベツなどで成育することもあるが,健全,かつ繁殖可能な個体は得られない。卵は径約1mm,高さ2mmほどの砲弾型で柔らかく,ギョボクの葉や芽に1個ずつ産まれる。強い雨などのため卵は横倒しになっていることがあるが孵化(ふか)に支障はない。幼虫は定住性が強く,ギョボクの小葉基部に,頭を先端に向けて静止する。終齢幼虫は6cmに達する。これに刺激を与えると体の前半をもち上げ,胸部を膨大させ,胸脚を隠れさせてヘビの頭のような姿勢をとる。第2胸節の側面にはヘビの眼のような大きな点がある。さらに刺激すると口から多量の緑色の液汁を吐く。さなぎは鮮やかな緑色で多く葉裏に見られる。年に少なくとも3回は発生し,九州ではさなぎで越冬するが,沖縄などでは冬も幼虫が緩慢に成長を続ける。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報