ジアルジア症(読み)ジアルジアショウ(その他表記)Giardiasis

デジタル大辞泉 「ジアルジア症」の意味・読み・例文・類語

ジアルジア‐しょう〔‐シヤウ〕【ジアルジア症】

giardiasis》⇒ランブル鞭毛べんもう虫症

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六訂版 家庭医学大全科 「ジアルジア症」の解説

ジアルジア症
ジアルジアしょう
Giardiasis
(感染症)

どんな感染症か

 ランブル鞭毛虫(べんもうちゅう)という寄生虫嚢子(のうし)に汚染された飲食物を飲み込むことによって感染する小腸の病気です。発展途上国を中心に世界で約2億人の感染者、150万人の患者がいると推定されています。

 先進国でも時に突発的な流行がみられますが、日本では感染流行国・地域への旅行者が感染して帰国後に発症する輸入症例が多いようです。それ以外ではアメーバ赤痢と同様に男性同性愛者、知的障害者での感染がよくみられます。

 1年の届け出件数は100人程度であり、約半数以上が海外で感染したと推定されています。インド、タイなどの感染地域への渡航で感染する人が多くみられます。国内では小児での発生は皆無で、食中毒として発生するケースはほとんどありません。

症状の現れ方

 感染しても無症状のまま経過したり、一過性の水様性下痢から自然に治ったりすることも多いようです。重症例では、慢性の水様性・非血性の下痢から消化吸収不良を起こしたり、胆管炎(たんかんえん)胆嚢炎(たんのうえん)を起こすこともあります。

 一般に健康状態が良好な日本人では、小児や老人、基礎疾患のある人以外は重症化することはまれです。

検査と診断

 糞便を顕微鏡で観察し、ランブル鞭毛虫の栄養型(分裂増殖する細胞型)を見つければ診断が確定します。また市販のキットで糞便中のランブル鞭毛虫の抗原を簡便に検出する方法もあります。しかし、嚢子はとくに下痢症状を示さない人の正常便からも見つかることがあり、ランブル鞭毛虫が下痢の原因かどうかを判断するのが難しい場合があります。このような場合、間接蛍光(けいこう)抗体法を用いて血清中の抗体を検出し、原虫の病害性を調べることが可能です。

治療の方法

 治療には前述のアメーバ赤痢と同様に、メトロニダゾール、チニダゾールが用いられます。これらの薬では食欲不振、悪心(おしん)、嘔吐、下痢、全身倦怠感(けんたいかん)などの副作用のほか、変異原性(遺伝子に変異を起こす性質)、発がん性の可能性も指摘されているので、小児・妊婦などでは慎重に治療する必要があります。

病気に気づいたらどうする

 感染流行地である海外への渡航歴があり、水様性下痢があるようなら専門医を受診するべきです。

野崎 智義

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「ジアルジア症」の解説

ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)(原虫疾患)

定義
 ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia,Giardia intestinalisともいう)による消化器感染症である.原虫は主として十二指腸など上部消化管の粘膜に接着し寄生し,ヒト並びに動物に下痢を起こす人獣共通感染症(zoonosis)である.
原因・病因
 嫌気的・微好気的環境に生育する原虫で,生活環は栄養型と囊子から形成される.栄養型はヒト・動物の十二指腸から小腸上部の粘膜,さらに胆管,胆囊の上皮に吸着して寄生し,これが下痢,胆管・胆囊炎の病因となる.栄養型は左右対称の洋梨型をしており,長径15~17 μm,短径5~7 μmで,胞体の上半部の前側は吸着盤(sucking disc)を形成する.核は左右対象に同一ゲノムをもつ1対が存在する.4対8本の鞭毛をもつ.下半部には副基体(parabasal body, median body)がある.囊子は楕円形で長径8~12 μm,短径5~8 μmで,成熟囊子は4核を有する.感染は成熟囊子の経口摂取による.栄養型から囊子への細胞分化は小腸上部で起こる.
疫学
 世界中で最もよくみられる腸管寄生性原虫で,熱帯,亜熱帯を中心に地域によっては感染率は20~30%にも達する.感染症法では赤痢アメーバクリプトスポリジウムとともに届出を義務づけられた五類に分類されている.わが国での届出数はきわめて少ないが,米国では年間250万人以上の感染があるとされている.先進諸国では旅行者下痢症(traveler’s diarrhea)として重要である.感染,発症とも幼小児の感受性が高い.感染には囊子に汚染した河川・プールなどを介した水系感染が重要である.また,MSM,知的障害者間での感染にも留意する必要がある.最近glutamate dehydrogenase,β-giardin,triose phosphate isomeraseなどの遺伝子の多型性からこの原虫の下位集団(assemblage A〜G)が分類され,宿主特異性との関連が検討されている.
病理・病態
 原虫が吸着している粘膜下には炎症細胞浸潤,微絨毛の短小化・脱落,粘膜上皮細胞の脱落・成熟阻害がみられる.成人,および免疫機能が正常な人が感染した場合,多くの場合無症状のまま自然寛解する.先天性・後天性の免疫不全時,特に分泌性IgAやIgM欠損のときに劇症化する.
臨床症状
 潜伏期は1~3週間である.主症状は上腹部痛,軟便・脂肪便を含む下痢,食欲不振,腹部不快感,膨満感である.感染が遷延すると吸収不良症候群(malabsorption syndrome)を起こし,小児の発育不良の原因となる.また,ときに胆囊炎,胆管炎を起こす.
診断・鑑別診断
 診断は,顕微鏡観察により,下痢便中の運動性の栄養型および囊子を検出する.有形便では囊子を検出する.ホルマリン-エーテル法など集囊子法,ヨード染色を併用すると囊子の判定が容易になる.糞便検査は日を変えて少なくとも3回行う.抗原捕捉ELISAや蛍光抗体法を用いた特異抗原検出によるキットが市販されている.また,PCRと核酸配列による種の同定と遺伝子型別が行われている.小児の下痢症はどれも鑑別診断の対象となるが,渡航歴や下痢便の性状などを鑑別の一助とする.
治療
 第一選択薬としては赤痢アメーバ症と同様に,メトロニダゾールあるいはチニダゾールを使用する.メトロニダゾールは成人には750 mg/日,分3,10日経口投与する.チニダゾールは2000 mg/日,分1,10日経口投与する.
予防
 赤痢アメーバ症に準ずる.[野崎智義]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「ジアルジア症」の解説

じあるじあしょう【ジアルジア症 Giardiosis】

[どんな病気か]
 ランブル鞭毛虫(べんもうちゅう)の寄生によっておこり、ランブル鞭毛虫症(べんもうちゅうしょう)ともいいます。不潔な環境で調理された飲食物などとともに嚢子(のうし)(休止状態の原虫)を摂取することで感染します。世界中に分布していて、農村部より都市部に多くみられます。
[症状]
 無症状の人もいますが、ふつうは上腹部痛、食欲不振、体重減少をともなった粘液性(ねんえきせい)の下痢(げり)症状が慢性的にみられます。また、胆嚢(たんのう)や胆管にもしばしば寄生するため、胆嚢炎の原因になるといわれています。
[検査と診断]
 消化器内科で糞便(ふんべん)検査を行ない、下痢便から栄養型(活動状態の原虫)が、また固形便から嚢子が証明されれば診断できます。
 なお、十二指腸液(じゅうにしちょうえき)や胆汁検査(たんじゅうけんさ)を行なって、栄養型が検出され、診断されることがしばしばあります。
[治療]
 メトロニダゾール系の薬を10日間内服すると治ります。
 この病気はほかの人への感染速度が速いので、家族や集団生活など同居をしている人も検査を受けて同時に治療することが必要です。
[予防]
 ランブル鞭毛虫の嚢子は乾燥、高温、アルカリに弱いため、野菜は加熱調理するようにします。

出典 小学館家庭医学館について 情報

知恵蔵mini 「ジアルジア症」の解説

ジアルジア症

原生動物であるランブル鞭毛虫を原因とする寄生虫病。人および他の脊椎動物に寄生し発症する世界的にありふれた人獣共通感染症で、感染者の便中にいる原虫が口から入ることで感染する。主な症状は下痢、腹痛、悪寒などであり、感染者の多くは無症状だが、免疫不全状態では重篤となることもある。治療にはメトロニダゾールなどの抗原虫薬、抗菌薬が用いられる。日本での感染は年間100例ほどであり、集団感染の例はない。医師は本症の患者を診た場合、7日以内に都道府県知事(保健所設置市・特別区長)宛届け出なければならない。2013年2月、群馬県営浄水場の水道水20リットルから1個体のランブル鞭毛虫が見つかった。

(2013-3-1)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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