改訂新版 世界大百科事典 「ジャクン族」の意味・わかりやすい解説
ジャクン族 (ジャクンぞく)
Jakun
マレー半島南部に住む原住民。〈ジャJah〉は〈人〉の意味であるが語源は不詳。ジャクンと自称する種族はいないが,民族学者は半島の北部・中部に住むネグリト系,モン・クメール語系の原住民と区別して,プロト・マレー人系の種族(約2万人)を総称するのにこの語を使った。しかしプロト・マレー人系のなかで,特定の部族名をもたないグループをジャクンと便宜的に呼ぶこともある。この狭義のジャクンは,人口約9000人で,オラン・フル(川上の人),オラン・ダラット(内陸の人),オラン・ダラム(奥の人)などとさまざまに自称する。10~30くらいの核家族世帯が独立の高床家屋に住んで集落を形成し,比較的奥地に居住して,主として焼畑耕作と森林産物採取とに従事している。開発の進んだ地域でマレー的生活様式を採用しても,イスラムはほとんど受け入れない。言語はアラビア語,サンスクリットからの借用語の少ない,古層のマレー語の方言である。エンダウ川流域に住むオラン・フルの場合,焼畑には,米,キャッサバ,トウモロコシ,アワ以外にサツマイモ,バナナなどを植え,5~6年間続けて栽培した後,ドリアンなどの果樹を植え,その畑を放棄して他の土地に移る。猪,小鹿,亀,川魚などは蛋白源として重要であるが,経済的依存度は低く,むしろ採取交易に大きく依存している。採取するものは外部世界の市場の需要によって決まるが,現在は華僑仲買人の要求に応じてトウ(籐)を切り出し,その見返りとして日用雑貨,米などの食糧を得ている。各集落ではバティンと呼ばれる統率者が1人選ばれて,村人間の紛争の決裁,農耕の日取り決定,外部社会に対する交渉などの役割を果たしている。同時にバティンは呪術師(ボモーまたはパワン)であることも多い。集落間を結びつける連合組織はない。マレーシア政府のオラン・アスリ(原住民)局は,原住民保護と生活向上を第一の目標にし,早急なマレー化を避けている。
執筆者:前田 成文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報