スポーツ外傷・障害〈総論〉

六訂版 家庭医学大全科 の解説

スポーツ外傷・障害〈総論〉

(運動器系の病気(外傷を含む))

 近年、スポーツは競技スポーツ・趣味のスポーツ・健康のためのスポーツとさまざまな形で社会に受け入れられてきました。そして、スポーツをする人の数の増加に伴い、スポーツによる外傷障害も増加し、その予防法や治療法についての正しい情報の提供が求められています。

 スポーツ外傷・障害はスポーツによって起こる運動器の「けが」や「故障」のことで、スポーツ傷害といういい方もありますが、傷害と障害の発音が同じであるため混乱してしまうことがあります。したがって、外傷・障害という用語を用いるほうがよいと考えます。

●外傷と障害の違い

 外傷・障害という用語の違いと原因について説明しておきます。外傷とはアクシデントによるたった1回の急激で大きな力が加わったことで発生する運動器の損傷で、いわゆる「けが」にあたるものです。たとえば、骨折、脱臼(だっきゅう)打撲(だぼく)捻挫(ねんざ)肉離れなどがこれに該当します。

 一方、障害はスポーツなどで繰り返し同じ動作をした場合、運動器の一定の部位に力がかかって損傷を引き起こすもので、機械でいう「故障」にあたり、オーバーユース(使いすぎ)の状態です。たとえば、後述するジャンパー膝(ひざ)オスグッド・シュラッター病野球肘(ひじ)テニス肘疲労骨折などがこれに該当します。

●スポーツ外傷・障害の特異性

 では、これらは一般の外傷・障害とはどんな点が異なるのでしょうか。一般の外傷・障害の最終目標が日常生活への復帰であるのに対して、スポーツ外傷・障害のそれはスポーツレベルまでへの回復であり、より高レベル、より早期の復帰が要求されるのです。その目標を達成するために、外傷・障害の発生メカニズムの解明や予防対策、トレーニング理論などが必要とされ、臨床医学のみならず、基礎医学、体育科学などの分野を併せもつスポーツ医学の領域が生まれました。

 また、スポーツ外傷・障害には、スポーツ種目による特異性や好発年齢、後遺症再発を来しやすいなどの特徴をもつものがあり、治療を行う際に、これらの特徴や身体的能力、スポーツ歴、スポーツ外傷・障害歴、さらにはチーム内での立場、スポーツに対する本人の希望などの背景を十分に把握しておく必要があります。

●主な外傷・障害

 ここで、スポーツ外傷・障害のうち最も一般的なものである捻挫打撲肉離れ、骨折、脱臼について簡単に説明しておきます。

 捻挫とは外力により関節の正常な位置関係が乱れ、一時的に逸脱してすぐに元にもどった状態をいいます。捻挫では靭帯(じんたい)が断裂しているか否かで重症度が決まり、治療や予後も異なってきます。

 打撲挫傷(ざしょう)ともいい、直達(ちょくたつ)外力(直接加わった外部からの力)により血管や組織が損傷を受けて皮下に内出血する状態で、スポーツでは大腿四頭筋(だいたいしとうきん)など体の前面に好発します。

 肉離れ打撲とは対照的に、自身の筋力により発生する筋肉の部分断裂で、ダッシュやジャンプなどの際に起こりやすく、ハムストリングス(膝の後ろのくぼんだ箇所の腱)、腓腹筋(ひふくきん)(こむら)など下肢後面の筋肉に好発します。

 骨折は何らかの原因で骨が2つまたはそれ以上に折れることをいいます。一般的には直達外力や介達(かいたつ)外力(間接的に加わった力)が加わって折れる外傷性骨折のことを指しますが、スポーツにおける特殊なものとして、自身の筋力によって筋肉の骨への付着部が引きちぎられて折れる裂離(れつり)骨折や、繰り返しの運動で加わる力が1カ所に集中することによって折れる疲労骨折などもあります。

 脱臼とは外傷性脱臼のことで、外力により関節の正常な相対関係が乱れ、関節面が持続的に逸脱した状態をいいます。関節の位置関係がすぐに正常にもどれば捻挫といい、もどらない状態が続けば脱臼ということになります。

●応急処置としてのRICE

 以上説明しましたスポーツ外傷・障害の応急処置として重要なのが、安静(Rest)、冷却(Ice)、圧迫(Compres-sion)、挙上(Elevation)です。これらは、その頭文字をとってRICE療法と呼ばれています。たとえば、足首捻挫をしてしまった場合、まずスポーツ活動を休止してあお向けに寝ころばせ(R)、アイシングのため氷のう(I)を、足首に弾性包帯で巻きつけ(C)、枕などで心臓より高い位置にあげておき(E)ます。こうすることで、出血腫脹(しゅちょう)(はれ)を最小限に抑え、二次的な損傷の防止や炎症を軽減させることができ、早期復帰に役立ちます。

 スポーツ外傷・障害では早期復帰のために適切な応急処置・診断・治療・リハビリテーションが必要なことはいうまでもありませんが、さらに重要なことは外傷・障害を発生させない予防対策です。そのために、最近では現場におけるメディカルチェックや予防法の啓蒙も盛んに行われるようになってきています。

加藤公

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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