日本大百科全書(ニッポニカ) 「セタン価」の意味・わかりやすい解説
セタン価
せたんか
cetane number
ディーゼル燃料の発火性の良否を示す指数で、セタン価が高い燃料ほど発火性が良好なことを示す。ディーゼルエンジンでは、燃料が気筒内の圧縮加熱空気中に噴射されたのち、その自然発火により燃焼をおこす。この際、燃料の発火性が不良な場合は、着火するまでの時間(着火遅れという)が長く、この間に気筒内に蓄積された燃料が一時に燃焼をおこすため、気筒内圧力の上昇が急激にすぎ、ガソリンエンジンにおけるノッキングに類似したディーゼルノック現象をおこし、熱効率・出力が低下する。とくに小型高速ディーゼルエンジンでは、一行程の時間が短いため、ディーゼルノックをおこしやすく、発火性が良好で着火遅れの短い燃料を使用することが必要である。ディーゼル燃料の発火性はその化学構造により大きい差があり、ノルマル(直鎖状)パラフィンはもっともよいが、枝鎖の多いイソパラフィンや、とくに芳香族炭化水素はもっとも不良である。この点ガソリンのアンチノック性(オクタン価)とはまったく逆の関係にある。
ディーゼル燃料のセタン価は、発火性が良好な代表的成分のセタン(n‐ヘキサデカン)、および発火性が不良な代表的成分のα‐メチルナフタレンの2種の炭化水素を標準燃料とし、それぞれのセタン価を100および0と定め、これら両成分を任意の割合に混合した標準燃料の示す発火性を、この燃料中のセタンの容量%の数値によって表す。しかしα‐メチルナフタレンは貯蔵中に変質しやすいため、1962年以降、低セタン価標準燃料としてセタン価15のヘプタメチルノナンを用い、セタン価は、
(セタンvol%)+
0.15(ヘプタメチルノナンvol%)
として計算することに改正された。とくに高速ディーゼル燃料としては、セタン価50以上のパラフィン系軽油が用いられる。
[原 伸宜]