音列のこと。音列とはある数の音を一定の順序に並べ,それを作曲の基礎として用いるもので,十二音音列が最も代表的な例である。十二音音列は作曲における多様化を図るため,原形(基礎形態Original)に対して,その反行形(Inversion),逆行形(Retrograde),反行の逆行形(Retrograde Inversion)という変化形を用いる(略号は通常英語の頭文字O,I,R,RIを使うが,ときにはドイツ語のG,U,R,KUも用いられる)。さらにこの音列をそれぞれ半音ずつ高めた移置形(原形をO1としてO2,O3,……,O12,I1,I2,……,I12,R1,R2,……,R12,R1I,R2I,……,R12I)を構成し,原形に対しその変化形と移置形で48種の音列ができる(図1)。こうしてできた諸音列は,OとIの系列と,RとRIの系列が音高は異なっても音程関係は同じであり,またRはOを逆にたどるだけであるため,どの音列も原形Oときわめて深い関係をもっている。十二音技法の意味はこうした音列に支配されることにより,楽曲に統一性をもたらす点にあった。音列の性格は作曲家が曲を構想するうえで重要な意味をもつ。
図2(この音列はベルクのオリジナルではなく,F.クラインが1921年に用いたもの)は前半と後半の音程関係が左右対称であり,さらにどちらかの音程を転回すると短2度~長7度までオクターブ内のすべての音程を含むため,総音程音列と呼ばれる。
図3はきわめて緊密な音程関係で構成されており,こうした音列はI10=R1,R10I=O1であるため,音列の総数は24種となる(図2も,O1=R7で24種)。ウェーベルンはこのような関係の音列を好んで用いた。また図1はI6の前半とO1の後半(その逆も)の諸音は同じとなり,シェーンベルクが好んで用いたもの。彼はこれを〈奇跡の音列〉と呼んだが定義があいまいなため,のちにその名称を取り下げた。
クルシェネクは音列の移置形に創意をこらした。図4のaⅠ,aⅡ,aⅢでは音高が〈循環〉しており,a1,a2,a3では音程が循環している。サールHumphrey Searle(1915-82)は原音列から2音おき,3音おきの音を取って移置形とする〈置換〉の方法を用いた。これらの方法は開始音を同一にできるため,音列に中心音性をもたせることが可能であるが,移置形に同一の音程関係を保たせることが困難となり,当初の音列技法の意味は薄れる結果となったが,メシアン,ブーレーズ,ストラビンスキーらによって用いられた。
→十二音音楽
執筆者:佐野 光司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
音楽用語。十二音音楽または十二音技法による楽曲の基礎形態として設定された12音音列Zwölftonreihe(ドイツ語)、série dodécaphonique(フランス語)をさす。それは、一オクターブを12等分した12種類の音を平等に扱うため、省略、重複することなく配列した音列で、そこではどの一つの音も他の11の音すべてが現れるまでけっしてふたたび用いられることはない。したがって、こうしてつくられる音列は、音の連なる順序を規制し、また楽曲を通して何度も繰り返し現れるため、伝統的な調性音楽における主題に類似した役割を担っている。ただし、各音はどのオクターブのものを用いてもよい。また、同じ音列の繰り返しから生じる単調さを避けるために原音列のさまざまな変形がなされる。変形法には原形をそっくり別の高さに移す移置、音程の上行と下行とを正確に逆に進ませる反行形、原形の配列を逆の順序にする逆行形、後二者を組み合わせた反行逆行形などがある。
なお、十二音音楽が成立した当初、セリーは音高に関してだけ適用されていたが、しだいにその観念が和音やリズム、さらには音色や強弱法にまで広げられ、ミュージック・セリエルへと導かれていった。
[黒坂俊昭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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