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十二音技法による音楽。ドデカフォニーともいう。音階中の諸音を,主音や主和音の支配の下にまとまりを形づくるものと考える従来の調性による音楽に対して,十二音技法は新しい音楽表現の追求から,平均律の12種の音を均等に用いた作法。十二音技法にはハウアーJoseph Matthias Hauer(1883-1959)とシェーンベルクの方法があるが,今日通常はシェーンベルクのものを指す。ハウアーは《音楽的なるものの本質についてVon Wesen des Musikalischen》(1920)によって,シェーンベルクより早くこの技法を提唱したが,広まることなく終わった。シェーンベルクは1921年,ハウアーとはまったく異なった十二音技法に到達し,《五つのピアノ曲》(1923)の第5曲,《セレナード》の第4楽章,《ピアノ組曲》の全曲をこの方法で書いて出発した。
シェーンベルクの十二音技法は,彼自身〈相互の間でのみ関係づけられた12音による作法〉と述べており,いわば無調音楽の組織的作法といえる。その中心はセリー(音列)にあり,オクターブ内にある12種の音から作品ごとに特定の音列を定め,それをその曲の基礎形態とした。基礎形態はその反行形,逆行形,反行の逆行形という変形(鏡像形)をもち,またそれぞれの音列は半音ずつ高められた移置形をもつ。一つの音列内の音は特別な例外を除いてすべて使いきるまで反復させずに用いる(図参照)。こうすることによって,その曲は常に基礎形態の音程関係によって潜在的に支配されることになり,曲に統一性をもたらす。
十二音技法は,弟子のウェーベルンが《三つの民謡詩》(1925)以後採用し,ベルクも弦楽四重奏《抒情組曲》(1926)以後採用した。ウェーベルンは《交響曲》(1928)以後点描的な作風に転じて独自の十二音音楽を確立し,第2次世界大戦後の音楽に絶大な影響を与える。クルシェネクはウェーベルン,ベルクらによって十二音技法を知り,オペラ《カール5世》(1933)からこれを用い始めた。しかしクルシェネクは合唱曲《エレミアの哀歌》(1942)で十二音技法に独自の改良を加えた。それは12音を6音ずつのグループに分け,その中で音程や音高を循環させて音列を変形させる。この方法によれば十二音技法に拠りながら再び一つの音に中心音性を持たせることが可能となる。1950年代以降ストラビンスキーが採用した十二音技法はクルシェネクの方法によるものが多い。また大戦後ブーレーズが主張した音列の移置形の新しい作り方も,基本的にはクルシェネクの方法と同じである。
十二音技法は第2次世界大戦後世界的に広まり,多くの作品を生み出したが,ブーレーズはセリーの思考を音高以外の要素(音価,音強,音色)にまで適用したミュジック・セリエルに発展させた。日本では入野義朗,柴田南雄らによって導入され,入野は《7楽器のための室内協奏曲》(1951)で日本最初の十二音音楽を書いた。
執筆者:佐野 光司
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…しかし,《ばらの騎士》では,上記の作品に見られる表現主義的傾向に再び手綱が締められ,優美な感覚的洗練と擬古的な傾向が現れてくる。 これを境として迎える二つの大戦間の時期は,ジャズの語法の導入(ストラビンスキーの《兵士の物語》,クルシェネクの《ジョニーは演奏する》),原始主義(オルフの《カルミナ・ブラーナ》),民族主義(バルトークの《青ひげ公の城》),新古典主義(ストラビンスキーの《エディプス王》)など,当時の作曲界のさまざまな潮流を反映したオペラが作られる一方,調性と和声機能の否定を意識的に徹底させた十二音の技法(十二音音楽)によるオペラが台頭した時期である。この技法の開拓者であるシェーンベルク自身には《モーゼスとアーロン》があり,その弟子ベルクは名作《ウォツェック》を残した。…
…しかし特にベートーベンの後期弦楽四重奏曲でみられるように,主要旋律やその断片が諸声部に分配されたり,副次声部も主要な主題や動機から導き出されるといった手法は対位法への新たな関心を物語るもので,ロマン派のR.シューマン,ブラームス,R.ワーグナーなどの作品でも,対位法はきわめて重要な役割を果たしている。特に20世紀の十二音音楽は,基本音列の反行,逆行,反行の逆行という対位法的手法を基礎とするものである。 なお,対位法の特殊な手法に〈転回対位法invertible counterpoint〉と呼ばれるものがある。…
…なお19世紀に顕著になった技法に,単一の基本動機の音型を発展させながら大形式を形成していく発展変奏(シェーンベルクの用語)がある。20世紀ではレーガー,ヒンデミット,シェーンベルク,ウェーベルンをはじめ多数の変奏曲が書かれたが,とくに後の2人によって発展がみられた十二音技法(十二音音楽)においては,曲全体が基本音列の変形からなるという点で変奏技法が根本原理となった。【土田 英三郎】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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