改訂新版 世界大百科事典 「ソアン文化」の意味・わかりやすい解説
ソアン文化 (ソアンぶんか)
パキスタン北部,インダス川支流のソアンSoan河谷にみられる旧石器時代の文化。テラHelmut de Terraらによって,カシミールの氷河期とこの地の河岸段丘の対比が行われ,各段丘面で発見される石器群の研究と併せてこの地域の旧石器時代を考え,区分する基準とされてきた。最上面のTDはヒマラヤ第Ⅱ氷期に対比され,プレ・ソアン文化と呼ばれる大型粗製の剝片の石器が磨耗して発見されている。第1の段丘はT1で第Ⅱ間氷期とされ,初期ソアンと称される片面加工で大型の礫器と剝片が主である。T2は第Ⅳ氷期で後期ソアンと呼ばれ,礫器とクラクトン型の剝片が中心で(クラクトン文化),石核と剝片に調整の跡をのこすものがあり,ヨーロッパの中期旧石器に該当すると考えられる。さらにT4からの石器は,同様ではあるが技法の発達を示し,剝片はより薄く,細かくなって石刃に近づくとされる。一方,ソアン河谷からは両面加工の石器類も発見されており,同じくソアン河岸の前期旧石器時代を主とするチャウントラ等では,ソアン文化の石器類と共存する。なおソアン文化をより細かく分割する考えもあるが,現在のインド,パキスタンでの研究の結果,地質学,考古学の両面からこの文化およびその編年等の再検討が必要とされている。
執筆者:重松 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報