日本大百科全書(ニッポニカ) 「そしゃく」の意味・わかりやすい解説
そしゃく
そしゃく / 咀嚼
口腔(こうくう)内で食物をかみ砕き、唾液(だえき)と混ぜ合わせること。この運動は、上顎(じょうがく)に対して、下顎を上下・前後・左右に動かし、歯によって食物をかみ砕き、すり合わせることによって行われるが、舌、口唇、頬(ほお)などもこの運動を助けている。そしゃく運動をつかさどる筋の一群を、そしゃく筋という。そしゃく筋は三叉(さんさ)神経によって支配されているが、頬の筋は顔面神経、舌は舌下神経が支配している。そしゃくは随意運動であるが、ほとんど無意識、つまり反射によって行われる。これは、歯根、歯肉、口腔の粘膜、そしゃく筋などに反射の受容器があり、刺激を受けると反射的に開口、閉口がおこるためである。
歯をかみ合わせる力を咬合力(こうごうりょく)といい、成人男子では、およそ切歯で11キログラム、犬歯で21キログラム、小臼歯(きゅうし)で22キログラム、大臼歯で31キログラムという値となっている。女子では一般にこれより4~5割低い。この力は食物の種類によっても異なる。たとえば、するめをそしゃくするときの力を12.4キログラムであるとすると、チューインガムでは7.6キログラム、カステラでは7.0キログラムという値が得られている。食物が口に入ると唾液腺(せん)から分泌される唾液の量は増加する。唾液には、おもに糖質を分解する酵素プチアリンptyalinが含まれている。したがって、そしゃくは単なる運動ではなく、唾液と食物を十分に混合し、糖質の分解、消化を行うという意味ももっている。なお、そしゃくが行われている間に、胃では胃液の分泌が始まっており、入ってくる食物を消化する準備を進めている。
[市河三太]