ソリトン(読み)そりとん(英語表記)soliton

翻訳|soliton

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソリトン」の意味・わかりやすい解説

ソリトン
そりとん
soliton

非線形現象の一つで、非線形方程式に従う、粒子のようにふるまう孤立波。波形や速度などの性質を変えずに伝搬し、互いに衝突しても、その性質を変えずに、互いを通り抜ける波のこと。1965年にザブスキーNorman Zabusky(1929―2018)とクルスカルMartin Kruskal(1925―2006)が、KdV(コルトベーク・ド・フリースKorteweg-de Vries)方程式を研究中に、同じ方向に進む孤立波どうしが、追い越しの前後で波形を変えずに粒子のようにふるまう数値解を発見。粒子性をもつ波として、孤立波の英語solitary waveに粒子を表すときに使う-onを加味して、ソリトンと名づけられた。量子力学の逆散乱問題(物理現象の因果関係を逆方向にたどる)を応用すると、この方程式が解析的に解けることがわかり、KdV方程式以外にも、非線形シュレーディンガー方程式、サイン・ゴルドン方程式、戸田格子方程式などの分散性非線形方程式に応用が広がっている。ソリトンは波動問題だけでなく、物性物理、微分幾何学、場の量子論などに広く応用されている。とくに、安定して高伝送容量にできる光ソリトンを使った光通信システムの高度化に対する期待が高まり、実用化に向けて大きく進展している。

[山本将史 2022年3月23日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ソリトン」の意味・わかりやすい解説

ソリトン
soliton

非線形波動の要素としての波。一定の波形を保ちながら伝播する。浅い水の水面波,気体中のプラズマ電気回路格子振動などの問題において,積分可能な非線形波動方程式が数多く知られている。その解は一般に安定なパルスであるソリトンとさざ波とから成るが,エネルギーや運動量の大部分はソリトンによって伝達されるので,これらの体系のふるまいはソリトンの集りの運動として理解される。ソリトンが 1965年に発見されてから,非線形波動現象の理解は革新的な進歩をとげた。磁区などの境界面,生体高分子による信号やエネルギーの伝達,血流など多くの現象がソリトンの概念を用いて論じられている。

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