暴行その他によって強制され、労働者の自由意思に基づかずに行われる労働。古代の奴隷労働がその典型であるが、近代社会においても、たとえば建設業、炭鉱などにおける「監獄部屋」「たこ部屋」、あるいは繊維業における工場寄宿舎などで、程度の差こそあれ強制労働とみなされるような状況がみられた。
日本国憲法は、まず国家との関係での身体の自由の保障という面を中心に、適正な手続を経ないで国民を逮捕したり刑罰を加えたりできないと定めている。たとえば憲法第18条は「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因(よ)る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」と定めている。しかし近代社会においては、封建時代のように暴君が恣意(しい)的に家臣、農民を拘禁・使役したりすることはないにしても、対等な者同士の自由な合意という形をとりながら、事実上労働者を不当に拘束するという状態は多々生じうる。そこで労働基準法はさらに具体的に、「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」(5条)と定め、これに違反した使用者には「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」(117条)という厳罰を規定している。
このような使用者による強制労働とみなされた具体例としては次のような例があげられる。労働者の所持金、化粧道具を取り上げ、さらに就寝時に外出着、下着を取り上げて逃亡を防ぎ、客をとらせた事件。暴行は加えなかったが、反抗すればどのような制裁を受けるか知れないような気勢を示して、1日14時間にわたる出炭労働を行わせた事件。
さらに労働基準法は、労働契約を締結する際の労働者の弱い立場につけこんで、たとえば、機械を破損したり不良品を出した場合の損害賠償額を不当に高い額であらかじめ定めておいて、実際上退職できなくすることを禁止している(16条)。また、使用者が、労働者が前借りした金と賃金を相殺することも禁じている。親が多額の金銭を借り労働者が無報酬で働くというような弊害を防ぐためである(17条)。賃金の一部を使用者が強制的に貯金させることも禁じている(18条)。
なお、大規模な強制労働の例としては、第二次世界大戦時におけるナチス・ドイツのユダヤ人に対する強制労働があげられる。日本軍に強制連行された朝鮮人や中国人にも過酷な労働が強いられた。
[木下秀雄・吉田美喜夫]
強制力行使や,脅迫手段の誇示など,精神や肉体の自由を奪ったうえで,自由意思に反する労働提供を強要すること。日本国憲法は18条において,〈何人も,いかなる奴隷的拘束も受けない。又,犯罪に因る処罰の場合を除いては,その意に反する苦役に服させられない〉と規定しており,労働基準法においても労働者の意に反して働かせることを禁じている。国際的にみても,植民地・委任統治地域における住民への強制労働を禁止する目的で,1930年,ILOは29号条約〈強制労働に関する条約〉を採択しており,日本も32年に批准している。これは,政治的制裁の手段,経済的発展の手段,労働規律の手段,差別待遇の手段,ストライキ参加への制裁手段としての強制労働を禁じた105号条約(強制労働の廃止に関する条約,1957年採択)とともに人権に関する基本条約となっている。
強制労働は,資本主義確立期における原生的労働として,また植民地経営の一環として,鉱山や鉄道の開発,建設,森林伐採等に利用されてきた。朝鮮から〈官斡旋〉の手段で朝鮮人を強制連行したのはこの一例といえる。また戦前は,土建業や炭鉱のいわゆる〈監獄部屋〉や〈たこ部屋〉,紡績業における〈寄宿舎〉などでは強制労働がかなり行われていた。一貫した強制労働政策の例としては,ナチス・ドイツやスターリン体制下の収容所が挙げられる。とくに後者は,〈階級敵〉や〈クラーク〉といった体制にとっての〈敵〉階級を一掃し,労働を通じた人間変革をめざすと称した点で特異な例であり,実際には,矯正と再教育による社会復帰を掲げたものの,重工業施設や,運河,鉄道,森林等の開発に奉仕するための制度であった。
→奴隷的拘束・苦役からの自由
執筆者:下斗米 伸夫+香川 孝三
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…男子の出稼ぎとして炭鉱や鉱山の鉱夫などもあった。戦前の出稼ぎには虚偽の労働条件の提供,強制労働,ピンはねなどの弊害がしばしばともなったが,戦後は職業安定法や労働基準法によってこれらの取締りがいっそう強化されることになった。 戦後は農閑期を利用した土建業,製造業への季節的出稼ぎが中心である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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