日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツァラ」の意味・わかりやすい解説
ツァラ
つぁら
Tristan Tzara
(1896―1963)
ルーマニア出身のフランスの詩人。本名サミュエル・ロザンストックSamuel Rosenstock。モイネシュティに生まれる。早くからフランス象徴派の影響下に詩作を試み、ブクレシュティ高校の同窓生マルセル・ヤンコらとともに雑誌『象徴』を刊行。1914年にトリスタン・ツァラを名のり、第一次世界大戦勃発(ぼっぱつ)後スイスのチューリヒに移る。16年、同地でフーゴー・バル、ハンス・リヒター、アルプ、リヒャルト・ヒュルゼンベックRichard Huelsenbeck(1892―1974)らとともにダダ運動を創始。以来この運動の指揮者として、飽くことなき否定の精神を体現し、国際的にその名を知られる。20年からパリに住み、3年間にわたってパリ・ダダの運動を展開。アンドレ・ブルトン、ルイ・アラゴン、ポール・エリュアールらと共闘するが、やがて離反。シュルレアリスム運動の形成期には孤立する。だが30年代にはこの運動に加わり、数冊の重要な詩集を発表。第二次大戦中は共産党員としてレジスタンス運動に加わるが、56年のハンガリー事件を機に離党した。ダダ時代の『アンチピリン氏の最初の天上の冒険』(1916)や『ダダ宣言1918』Manifeste Dada 1918の著者としてばかりでなく、生涯にわたる清新な詩作、とくに『近似的人間』(1931)、『狼(おおかみ)の水飲み場』(1932)、『反頭脳』(1933)のような詩集の著者として、20世紀フランス文学史上にその名をとどめる資格をもつ。詩論やエッセイにも注目すべきものがある。
[巖谷國士]
『浜田明訳『ツァラ詩集』(1981・思潮社)』