改訂新版 世界大百科事典 「トチカガミ」の意味・わかりやすい解説
トチカガミ
Hydrocharis dubia (Bl.) Backer
池や溝にはえるトチカガミ科の多年草。走出茎が水底を横にはい,その先に新しい株をつくる。葉は長い柄があり,その基部に2枚の托葉がある。葉身は円心形で径4~7cm,裏面の中央に気囊があり,水面に浮かぶ。花期は8~10月,花は単性で苞鞘(ほうしよう)の中にできる。雄の苞鞘には約5cmの柄があり,雄花のつぼみはこの中に約5個でき,花柄が伸びて1個ずつ水面で開花し,1日でしぼむ。雌の苞鞘には柄がなく,中に雌花が1個だけ発達する。萼片は3枚で緑色。花弁は3枚で卵形,白色で長さ10~15mmある。雄花には6~9本のおしべと3~6本の仮雄蕊(かゆうずい)がある。雌花には6本の仮雄蕊があり,花柱は6本で二叉に分かれている。子房は下位で6室があり,中に多数の種子をつける。本州~沖縄および東南アジア,オーストラリアの温帯から熱帯に分布している。トチカガミのトチ(ドチ)はスッポンの意味で,カガミは丸くて中央に気囊のある葉を和鏡に見立てたもの。
トチカガミ科Hydrocharitaceae
単子葉植物綱オモダカ目群に入る水草で,世界の温帯から熱帯に広く分布し,約15属100種がある。大部分は淡水中に生えるが,一部は海水中に生えるものもある。花のつき方は集散花序の単純化したもので,花序は2枚の苞鞘片が合着したものの中にできる。雌雄異株または同株で,花は両性または単性である。雌花あるいは両性花は苞鞘の中に1個だけが発達し,他のつぼみは退化している。雄花は小さく,苞鞘の中に多数できることが多い。花被は萼と花冠の区別のあることが多く,3数性である。子房は下位で,2~15個の心皮から成り,各心皮の側面は互いに離れているが,中肋だけがつぼ形になった花床の内面に合着しており,偽合性(ぎごうせい)心皮といわれる。胚珠は多数あって,心皮の内面のすべての場所につき,面生胎座といわれる。受粉の方式は水中での生活に適応して多様である。虫媒によるもの(トチカガミ,ミズオオバコなど)のほかに,小さい雄花の花柄が切れて水面を流れ,大きな雌花の柱頭につくもの(セキショウモ,ウミショウブ,コカナダモなど),花粉が粘液でつながり数珠状となって水面を流れるもの(ウミヒルモ,リュウキュウスガモ)などがある。
この科に最も近縁なのはハナイ科で,子房上位で完全な離生心皮をもつ点だけが異なる。さらに,面生胎座は双子葉綱のスイレン科とも共通で,遠い類縁関係があるとされている。
執筆者:山下 貴司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報