明瞭(めいりょう)な乾期をもつ熱帯・亜熱帯地方に発達する植生帯。サバンナともいう。丈の高いイネ科草本からなる草原に樹木が散生し、開かれた景観を形づくる。アフリカ、南アメリカの熱帯雨林の外側に広く分布するほか、インド、インドシナ半島、オーストラリアなどにも広い分布域をもつ。地形的にも特色があり、ボルンハルトbornhardtとよぶ丸みを帯びたはげ山や、ラテライト性の鉄皮殻のつくる台地状地形、それに巨大なアリ塚によって特徴づけられる。気候はサバナ気候で、降雨は赤道気団に覆われたとき、または熱帯内収束帯の通過時に限られるため、ほとんど夏期に限定され、他の時期は4~10か月に及ぶ長い乾期となる。このため雨期には至る所に水たまりができるほどであるが、乾期には著しく乾燥し、高温と激しい蒸発散により、水不足がおこる。植物は乾燥に耐える生活形をもち、乾期には枯れたり、落葉したりするものが大部分である。サバナの成因については、乾燥した気候のほか、家畜の放牧や、乾期に毎年繰り返される野火などの人為的な作用が重要な役割を果たしてきたと考えられており、サバナの大部分が人為的なものであるとする学者も少なくない。サバナや熱帯雨林地域で野火や過放牧が繰り返されると、腐植に富んだ表土が流出し、土壌はやせて侵食を受けやすくなり、場合によっては強い日光でれんが状に固結してしまう。これも一種の砂漠化で、世界各地で問題になっている。
[小泉武栄]
熱帯草原であるサバナは、アフリカ大陸では、赤道近くの熱帯雨林をコの字型に取り囲む広大な地域で、その地域特性を生かした種々の生活形態が営まれている。豊富な草食動物をおもな対象とする狩猟採集は太古よりみられる生業活動であるが、今日では、サン(かつてはブッシュマンとよばれた)やハザのような少数民族の例を除いては、副次的な役割しか果たしていない。牧畜もこの地方での重要な生業形態で、アフリカ全体でみるとヤギの頭数は全世界の30%近くを占め、ウシも10%を超える。ウシは社会的・文化的にも重要な意味をもち、フラニ(フルベ)やナイロート系諸族のように牧畜主体の経済を営む民族も多い。今日では、マサイのように農耕を蔑視(べっし)する例外を除いては、ほとんどの民族が農業にも携わっている。また南部サバナのかなりの地域は、草原よりも疎林が多く、ツェツェバエのため牧畜には向いていない。農業は雨期の雨を利用した天水農耕で、浅耕でしかも地力を回復させる手段が貧弱であるため、もっぱら移動農耕の形をとる。雑穀類が主体で、トウモロコシは広くつくられている。シコクビエ、トウジンビエ、モロコシの類はアフリカのサバナが原産地だともいわれる。
こうした多様な生活形態のうえに築かれる社会組織にもさまざまなものがみられる。単系出自集団に基づく分節的社会が典型であるが、北部サバナの縁辺部には古くから王国や首長国が発達し、また南部サバナ一帯にも首長国が広く分布していた。東アフリカの牧畜民の一部では、年齢集団組織が高度に発達している。
アフリカのサバナは、人類生誕の地として注目を集めているが、この地方、とりわけ南部サバナに人々が広く住むようになったのは比較的最近のことであると考えられている。10世紀以前に始まったバントゥー系諸族の拡張と南下によるもので、この過程がヨーロッパ人との接触時にもなお進行中であったことを示す証拠もある。
[濱本 満]
サバナは南アメリカ、アフリカ、オーストラリアなどに広く分布するが、サバナには気候条件によって成立する湿潤サバナ、乾燥サバナ、低木林サバナがあるほか、土壌条件や火入れ、伐採、放牧などといった人為作用によって成立するサバナもある。いずれにしても草本種が密生する草原に高木や低木種が散生する状態をサバナというが、単に相観的にこのような状態にある場所をさすものではない。気候的には熱帯あるいは亜熱帯地域に属し、年降水量が200~1000ミリメートルで、乾期の長さが2か月半から10か月であること、さらに、遷移的にみて極相であることが条件となる。サバナは生育する草本種の草丈によって長草型と短草型の二つ(後者のほうが乾燥条件が厳しい)に分けられるほか、樹木の生育の仕方やその生活型によって樹林サバナ、高木サバナ(常緑広葉樹、ヤシ、落葉樹、サボテンなど)、低木サバナ、草原サバナ(高木、低木の生育がみられない)などに分けられる。サバナを特徴づける散生した樹木でみると、アフリカ、南アメリカではマメ科の樹種(アカシア属など)が主体で、そのほかにトウダイグサ科、パンヤ科の植物、さらに両大陸に特有の樹種が生育する。オーストラリアではユーカリ属とアカシア属がおもな樹種である。草本種ではアフリカやオーストラリアがイネ科(ウシクサ属)の一年生および多年生種が主体であるのに対し、南アメリカではカヤツリグサ科(イヌノハナヒゲ属)が圧倒的である。
[大賀宣彦]
サバナの動物相はきわめて豊かである。なかでも大形哺乳(ほにゅう)類、とくに有蹄(ゆうてい)類が目だつ。有蹄類の進出しなかった南アメリカのリャノでは齧歯(げっし)類、オーストラリアの草原では有袋(ゆうたい)類のカンガルーが有蹄類のかわりの生態的役割を果たしているが、有蹄類の場合ほど動物相は豊かにはなっていない。サバナ植生の語源となっているアフリカのサバナでは有蹄類が動物相の主力となる。たとえば、タンザニアのセレンゲティでは27種の有蹄類が生息している。これは、日本産の中形以上の陸上哺乳類が20種に満たず、なかでも有蹄類は3種のみであることと比較すれば、その豊富さがわかる。またセレンゲティでは草食獣全体で1ヘクタール当り8.3トンという数値になる。この草食獣の豊富さがライオン、ヒョウなどの肉食獣を維持することとなり、より複雑な動物相が形成されることになる。アフリカのサバナにはこのほかに昆虫食の哺乳類がいる。なかでも、ツチブタ、オオセンザンコウ、ツチオオカミ(アードウルフaardwolf)などはサバナに豊富にいるシロアリを常食としている。
サバナは鳥類にとっても豊かな環境となっている。アカシア林に生息する多種のハタオリドリ、巨大な地上生活者であるダチョウやオオサイチョウ、ノガン類などサバナに特有の鳥類も多い。なお、ダチョウの系列の鳥には、オーストラリアの草原にエミューが、南アメリカのカンポとパンパスにレアがいる。サバナの無脊椎(むせきつい)動物で特記すべきものはシロアリとトビバッタ(飛蝗)である。ともにその個体数と生物体量(バイオマス)は膨大であり、サバナのエネルギー循環に重要な役割をする。後者はまた、農地に侵入し、大被害を与える。
[大澤秀行]
『小野勇一著『サバンナの生きものたち』(1980・西日本新聞社)』▽『梅棹忠夫著『サバンナの記録』(1982・朝日新聞社)』▽『小原秀雄文、青木保写真『アフリカンサバンナ――最期の大自然』(1991・丸善)』▽『サバンナクラブ編『サバンナの風――東アフリカの自然と人と動物と』(1993・メディアパル)』▽『川田順造著『サバンナに生きる』(1995・くもん出版)』▽『広瀬昌平・若月利之著『西アフリカ・サバンナの生態環境の修復と農村の再生』(1997・農林統計協会)』▽『端信行著『サバンナの農民』(中公新書)』▽『川田順造著『サバンナの手帖』(講談社学術文庫)』▽『川田順造著『サバンナの博物誌』(ちくま文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…熱帯地方にみられる草本主体の原野。サバナともいう。アフリカ中部のいわゆるサバンナ,南米北部のリャノllano,カーチンガcaatinga,カンポcampoなどのほか,オーストラリア北・中部,インド半島,カリブ海地方などに分布し,丈の高い草原の中に孤立木が散在する長草サバンナを主体とするが,気候,土壌等の条件の差に応じてその相観はさまざまである。…
※「サバナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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