R.ワーグナー作詞・作曲による全3幕のオペラ。台本は作曲者自身により1862年に完成,67年に総譜が完成した。68年6月ミュンヘンの宮廷劇場で初演。物語は16世紀半ばごろ,ドイツの都市ニュルンベルクにおける聖ヨハネ祭の日,マイスタージンガーたちの歌合戦が行われ,優勝者には金細工師ポーグナーの娘エーファが賞として与えられることになった。互いに好意を寄せ合うエーファと青年騎士ワルター,ひそかにエーファを愛している靴屋の親方ハンス・ザックス,エーファを獲得しようとあせる書記ベックメッサーらが主要登場人物である。ワルターは試験を受けてマイスタージンガーの組合に入れてもらおうとするが,歌の試験に失敗し,落胆のあまりエーファと駆落しようとする。しかし彼の歌に感動し,自らの愛をあきらめたザックスの,機知に富んだとりなしにより,ワルターは歌合戦で優勝することができた。
悲劇《タンホイザー》のあとワーグナーは軽い喜歌劇を書きたいと思って,この作を構想したが,結局でき上がったものは重厚な大作となった。初期の作品を別にすれば,ワーグナー唯一の喜劇作品である。主人公ザックスは実在の人物でマイスタージンガーとして有名であった。音楽としては,前作《トリスタンとイゾルデ》の半音階的性格とは反対に,全音階が支配的であり,しかも明朗なハ長調を基本とする。しかし題材が中世からとられたものだけに,ポリフォニックな手法が多く用いられている。また《トリスタンとイゾルデ》や《ニーベルングの指環》の徹底した楽劇様式とは異なり,旧来のオペラの音楽様式がかなり取り入れられており,レチタティーボとアリア,二重唱,三重唱などまとまった楽曲が多い。ここでワーグナーの表現した思想は,芸術上の保守的な俗物主義を排撃して,健全な民衆芸術をたたえ,ドイツ精神を高揚することにあった。またザックスの愛情にみられる〈あきらめ〉の態度は,当時のワーグナーの体験したところであった。
執筆者:渡辺 護
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ワーグナーの楽劇。三幕。1867年完成。15世紀から16世紀にかけてドイツで栄えた市民による歌唱芸術(その資格をもつ歌い手がマイスタージンガー)を題材として作詞・作曲したもので、ワーグナーの主要作品のなかでは唯一の喜劇的要素をもつものである。実在のマイスタージンガーの1人、靴屋の親方ハンス・ザックスが、若い騎士ワルター・フォン・シュトルツィングを助けて歌合戦に勝たせ、恋人エーファを獲得させるという筋書き。若い2人の情熱をはじめとして、伝統的な規則に固執する書記親方ベックメッサーの失敗、ワルターの歌に新しい芸術の可能性を認めるザックスの寛容さとエーファに対する諦念(ていねん)、そして民衆芸術の賛美など、そこには新旧芸術の確執やさまざまな人間模様が織り込まれている。有名な「前奏曲」に代表されるように祝祭的な雰囲気に満ちあふれた音楽だが、一方では「ザックスのモノローグ」(第二幕)のように微妙な心理描写にも成功した作品で、その表現の密度の高さは、ワーグナーの全作品のなかでも群を抜いた存在といえよう。なお、この作品はドイツ芸術を賛美する内容をもつため、1868年のミュンヘン初演以来、ドイツ統一を求めるナショナリズムの象徴として用いられ、一時はナチスの国威・戦意発揚の道具に利用されたこともあった。日本初演(抄演)は1960年(昭和35)。全曲初演は81年二期会による。
[三宅幸夫]
…中世ドイツの文人。ワーグナーの楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》で知られるように,靴屋の親方のかたわら職匠歌人(マイスタージンガー)で,詩を書き劇作もした。ニュルンベルクで生まれ,遍歴時代を除き没するまで同市を離れなかった。…
…16世紀の終りころには謝肉祭劇は衰え,その後のドイツにおける演劇のなかには,そのような祝祭的喜劇・民衆的演劇の伝統は,ほとんど受け継がれることがなかった。なお,ワーグナーの楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》は,この謝肉祭劇の世界に取材したものであり,巨匠ハンス・ザックスもその登場人物の一人である。演劇【永野 藤夫】。…
※「ニュルンベルクのマイスタージンガー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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